『わらの犬』(1971年)
この作品はサム・ペキンパー監督、ダスティン・ホフマン、スーザン・ジョージ主演の村社会・暴力ドラマのようです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1971年 ダニエル・メルニック・プロダクション/ABCピクチャーズ 英国=アメリカ作品
ランニング・タイム◆117分
原題◆Straw Dogs
プロット◆英国の片田舎の村社会を舞台に、いじめと偶然から一軒家で暴力沙汰となる話しのようです。
音楽◆ジェリー・フィールディング
日本ビクター発売のDVDにて。
画質は非常によいです。以前買ったLDとはエライ違いでした。
キャスト
ダスティン・ホフマン→アメリカ人のデビッド・サムナー
スーザン・ジョージ→若奥さんのエミー・サムナー
デル・ヘンリー→エミーの昔なじみのチャーリー・ベナー
ケン・ハッチソン→性悪なノーマン・スカット
ジム・ノートン→ネズミ駆除のクリス・コージー
ドナルド・ウェブスター→赤ら顔のフィル・リッダウェイ
ピーター・ボーン→乱暴なトムじいさん
T.P.マッケンナ→品行方正謹厳実直のスコット少佐
デビッド・ワーナー→精薄のヘンリー・ナイルズ
ピーター・アーン→その兄のジョン・ナイルズ
サリー・トムセット→トラブルメーカーの女の子ジャニス
レン・ジョーンズ→その兄妹のボビー
ロバート・キーガン→パブのバーテンのハリー
コリン・ウェランド→フード牧師
シェリナ・スカー→フード牧師の奥さん
サム・ペキンパー監督の演出はよいと思います。
カットバックが全開になっています。とにかく猛烈にカットを割っています。効果音、セリフのかぶさり、この手法もよい。とにかくよいのだ。
ディテールでは・・・
霧笛の効果音。
演奏が終わってしまい、ただ回転しているだけのレコードの効果音もたいしたものです。
猫を苛めたり殺してしまったりするとこだけはイマイチです。
この作品の編集を担当しているロジャー・スポテスウッドの監督ぶりはごく普通でした。サム・ペキンパー監督作品の編集なんかしているのだからと期待していたんですけど。
ダスティン・ホフマン扮する主人公の内憂外患、四面楚歌の奮闘ぶりが凄い。
全然、進まない車庫作りから始まって、めぐりあわせが悪くてキチガイな暴力沙汰になる話しとなっているのです。
いいキャラ、悪いキャラ、きれいに別れているわけではないのがリアルのゆえんとなっています。
ヨーロッパのアメリカ・コンプレックスは相当なものだと再確認出来ます。
村社会の描写が念がいっています。何でも筒抜けとか。野放しになっているやからとか。
やたら顔見知りのシチュエイション。リアルなキャラ達。
寝室を覗き見する若い2人がいました。これも野放し。
ネコが吊るされると夜のシーンで一軒家のロングショットが入ります。
得意のカットバック全開です。フラッシュバックも多用。結構むちゃくちゃな展開なのですが見てて納得出来るのは不思議なとこ。
確信人間のサンプル集でもあります。
コリン・ウィルソンの著作にこの確信人間=right manなる言葉が出てきます。
しょうもない連中がまったくよく描かれていますが、銃の扱いだけは慎重なのがリアルのゆえん、緊張感があります。ここが日本と大きく違うとこです。日本では緊張感がないから。
日本の確信人間の方々は、好きのことやってるけど後ろから刺されることもある覚悟でやってるんでしょうね?。
確信人間とはペキンパー自身のことかな?、だからよく描かれているのかなと思えてしまいます。
批評の類では、確信人間のとこは無視しています。
で、暴力に酔ってしまう主人公と片づけてしまうのです。無意識にバイアスがかかってるのかと思ってしまいます。
ところでマスコミは「性悪」を「奔放」と言い換えをやっています。何故そうなるかというとマスコミ連中が同類の人種だからでしょう。
ヒロインのエミーに扮するスーザン・ジョージの演技や描写で・・・。
子役出身のスーザン・ジョージ。美しく成長しています。でもこの作品に出たのがキャリアにプラスなのかマイナスなのか判断の難しいとこです。
若作りの元祖か?、スーザン・ジョージのキャラは、現在ではホントにいます。こんな感じの奥さん達が・・・。
ノーブラでニット姿が多い。
ベッドではチェスの本を読んでいました。
エミーの昔なじみの男は6年ぶりに会ったとなっていた。
昼間っから酒を飲んでばかりいるような。タバコも猛烈に吸っていました。
クルマはトライアンフでナンバーはRVC430H
→ 1970 Triumph Stag Pre-production Mk1 [LD9]
エミーの「私は被害者よ」と亭主の足を引っ張る足手まといぶりは相当なものです。
サム・ペキンパー監督が本気になってスーザン・ジョージ本人を嫌っていたという話しも本当に思えます。
ラストで何でエミーがショットガン撃つのを躊躇していたのは、ここで撃ったら自分が被害者にならなくなってしまうからでしょう。で、最後まで自分は被害者で通そうとしたがついにショットガンを撃ってしまい自分自身も暴力騒動の参加組に入ってしまったというアイロニー。これは強烈です。
この作品でスーザン・ジョージのキャリアを決定づけてしまったようです。でもこの作品が残ったからいいのでは・・・
ダスティン・ホフマンの演技は文句のつけようがない。名演でした。
デビッド・ワーナーとノンクレジットとのことです。何で?
各キャラのポイント。プラスとマイナス。
デル・ヘンリー扮するエミーの昔なじみのチャーリー・ベナー。
なんというか優柔不断というか中途半端というか人間的なキャラのようです。やってることは相当なものです。
ケン・ハッチソン扮する性悪なノーマン・スカット。
ショットガンを突きつけてレイプ交代の図。ここでアナルファックをしてたとどこかで読んだけど、よくわからず。
これがあるんだよ。「俺に触るんじゃねえ」と自分ではふざけてデビッドの手を叩いてくせにこの言い草ですから凄いディテール描写です。
ジム・ノートン扮するネズミ駆除のクリス・コージーは嫌な笑い方で印象に残ります。こいつが猫が吊るしたのでしょう。商売敵というわけです。最低です。
ドナルド・ウェブスター扮するトラックを運転して登場する赤ら顔の男フィル・リッダウェイは単細胞で自分は正しいと思い込んでるだけ。体だけは丈夫でデビットを攻め立てる最後の一押しになっています。
ピーター・ボーン扮する乱暴なトムじいさん。
サリー・トムセット扮するトラブルメーカーの女の子ジャニス。
レン・ジョーンズ扮する腰ぎんちゃくなボビー。
よくこれだけそろえたなといった感じのキャラ達です。
牧師が登場しますが俗物で寄付金のことしか考えていないようでした。
奥さんが美人なのもそんな感じ。その奥さんに少しは本を読めなんて言っていた。
全然仕事していない男たち。
パブでこの4人が並んでいるショットがありました。
さすがに銃の扱いだけは慎重でした。
やたらとガラスを割るとこが何となく納得出来たりします。この手の人達のやることはいつも同じということらしい。学校の窓ガラスを割ったいたのでしょう。
この手のキャラクター達の描写が実にていねいに描かれています。
これほどちゃんと描写している作品はそうはない。サム・ペキンパー監督本人はこの手のタイプ?だと思われるのに隠さないで的確に描写する。サム・ペキンパー監督って面白い人です。
同じような感じな村社会を舞台で、ジョン・フォード監督のさわやかなドラマ『静かなる男』(1952年)と、『わらの犬』(1971年)を続けて見ればかなり気が狂いそうになりそうです。設定とかやってることはあまり変わらずで、結果は全然違うのです。
ファザコンのヴァリエーションの佳作です。
『わらの犬』(1971年)はいじめを受けた男が切れる話と一言ですみそうですがそうではなく厳しい描写バランスで、話しは全く違いますが描写バランスではイングマル・ベルイマン監督の『処女の泉』(1960年)に匹敵するくらいの作品だと思います。
そんなわけでいじめっ子の論理をここまであからさまに描写した作品はなかなかありませせん。傑作です。
それにしても見てて疲れる作品です。何回見ても疲れます。どのキャラも嫌な感じで見ている者の思い入れを拒否しています。
暴力に対してなすすべがない。これは事実です。筋違いな激怒憤怒の図。この辺がこの作品の凄いとこです。
« 『時計じかけのオレンジ』(1971年) | トップページ | 『ミスター・クレイジー 殺したい男』(1996年) »
「映画」カテゴリの記事
- 『彼らは忘れない』(1937年)(2022.02.27)
- 『ギャングを狙う男』(1953年)(2022.02.26)
- 『ブラック・リッジ』(2020年)(2022.02.20)
- 『フローズン・ストーム』(2020年)(2022.02.19)
- 『私は逃亡者』(1947年)(2022.02.13)
「1970年代」カテゴリの記事
- 『見えない恐怖』(1971年)(2021.11.27)
- 『危険な愛の季節』(1975年)(2021.06.19)
- 『サイコマニア』(1972年)(2020.06.07)
- 『殺人ブルドーザー』(1974年)(2020.06.06)
- 『キラーカーズ パリを食べた車』(1974年)(2020.04.05)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 『わらの犬』(1971年):
» 映画 フェイス/オフ(1997) 僕も他人と入れ替わりたいね [ザ・競馬予想(儲かるかも?)]
にほんブログ村 映画ブログ
今日は、病院へ行ったついでに飼っていた犬の墓参りに行ってきました。特にミッキー(バーニーズ・マウンテンドッグ)の事は、まだ生きてたらなあと、思います{/dog_love/}{/face_gaan/}
その後家に帰って、競馬中継を観ていたのですが、金杯(京都)は悔しい結果に終わり、寝てしまいました。あ〜悔しい{/face_naki/}
フェイス/オフ 特別版ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントこのアイテムの詳細を見る
起きた時は18時くらいだったけれど... [続きを読む]
« 『時計じかけのオレンジ』(1971年) | トップページ | 『ミスター・クレイジー 殺したい男』(1996年) »
こんにちは。正月休み中にジョン・ウー監督のフェイス/オフは面白かったです。是非見てください。TBもしておきます。
投稿: ディープインパクト | 2008.01.07 22:49
何回もすいません。正月休み中にDVDで見たジョン・ウー監督のフェイス/オフは面白かったです。是非見てください。TBもしておきます。
わらの犬ですが、僕も見ました。駄目駄目ダスティン・ホフマンが、仕方なく頑張る映画ですね。
でも、今思えば、サム・ペキンパー監督とダスティン・ホフマンのコンビはあんまり合うような気がしませんが、今見てもあんま栄違和感がないですね。さすがダスティン・ホフマンですね
投稿: ディープインパクト | 2008.01.07 22:53
ディープインパクトさん、コメントありがとうございます。
ジョン・ウー監督の『フェイス/オフ』は見ています。
ハトが飛ぶ作品ですね。これだけではなく予告編でおなじみの鏡に映っている互いに自分ではない自分を撃つシーンも決まってよかったですね。振り返ってのターンすることはさすがにジョン・トラボルタの方が華麗でした。だてにサタデーナイトフィーバーをしていたわけではありません。ダンスの訓練を受けているのがこんなとこにも生かされるようです。ニコラス・ケイジは同じにターンしていたのではかなわないので少し武骨な感じでターンしていたような感じでした。
この作品の感想もそのうちに出したいものです。
投稿: ロイ・フェイス | 2008.01.12 12:09