『ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦』(1972年)
この作品はサム・ペキンパー監督、スティーブ・マックィーン主演の現代のカウボーイのドラマです。全体的にはホームドラマのようになっています。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1972年 アメリカ作品
原題◆Junior Bonner
日本ビクター発売のDVDにて。画質はよいです。以前買ったLDより全然よい。このDVDを買ってよかった。
プロット 故郷を訪れた二日間の話しのようです。
キャスティングはよいと思います。渋いキャスト。
スティーブ・マックィーン→現代のカウボーイ、ジュニア・ボナー
ロバート・プレストン→ジュニア・ボナーの父、エース・ボナー
アイダ・ルピノ→ジュニア・ボナーの母エリー・ボナー
ジョー・ドン・ベイカージュニア・ボナーの兄カーリー・ボナー
ベン・ジョンスン→牧場主バック
サンドラ・デール→ナースのアーリス
マリー・マーフィー→兄の奥さんルース・ボナー
バーバラ・リー→行きずりの人
タブ・テイラー→酒場のマスター
酒場のマスターは『ゲッタウェイ』1972年版でエルパソのホテルの主人をやってた人でした。
サム・ペキンパー監督の演出はよいと思います。
タイトルはマルチスクリーンの手法を使ってます。センスがいいです。
話しの内容に合わせてカントリーソングが効果的に流れます。
いわゆるフィルムを切り刻むという手法となっています。
カットバック全開で描いたホームドラマとなっています。スローモーションだけではダメでスローモーションとカットバックを併用してこそ効果が出るものと私は思ってます。
河辺でキャンプするスティーブ・マックィーン扮する現代のカウボーイ、ジュニア・ボナー。このシーンは美しく撮れています。絵画のようです。
プレスコットという街が舞台となっています。
父の牧場の家が取り壊されるシーンではサム・ペキンパー監督得意のカットバックを駆使して見せてます。見ているジュニア・ボナーに、壊すとこ、壊す前となっていたような。この手法は誰にも真似は出来ないでしょう。
人が行ったり来たりのダレそうなとこは省略し飛ばしてしまいます。
ジュニア・ボナーが見舞いに行くと言って家のドアを開けて、次は病室のドアを開けているといった具合です。上手いです。
基本的にホームドラマなのでサム・ペキンパー監督得意なアクションシーンは少ないです。
兄を殴り倒すのと酒場の大乱闘ぐらいなものです。で、酒場の大乱闘ではちゃんとカットバックしてていい感じです。
サム・ペキンパー監督は子役を使うのが好きなようです。
子役があちらこちらでアクセントになってます。サム・ペキンパー監督って不思議な人だ。
ロデオ大会でのぺアで行う牛倒しですが、片方が倒す人で片方がサポートで牛が離れないようにしてるようです。なるほど。
ここでベン・ジョンスンが馬を走らせるとこをスローモーションで見せてくれます。いい感じ。こういうセンスがサム・ペキンパー監督独自のセンスなのです。
スティーブ・マックィーンは見事に馬を乗ってます。
ハリウッドのスターは馬に乗れないと男として認めてもらえないそうです。
だからアーノルド・シュワルツェネッガーは馬に乗る。鉄の馬バイクのハーレーに乗る。少し狙い過ぎであからさまな感じでこちらはマジで嫌みを感じます。
ジョー・ドン・ベイカーはジュニア・ボナーのつまりスティーブ・マックィーンの兄の役です。やり手の不動産屋で羽振りはいい。だからジュニア・ボナーに説教を垂れます。
ドン・シーゲル監督のアクション『突破口』(73年)での凄腕の取り立て人もいい役だったけど、この作品の役はジョー・ドン・ベイカーのキャリア最高の役かもしれません。兄だから弟に何でも言える、嫌みなキャラがいい感じです。
そんなわけでサム・ペキンパー監督にしては異色な作風の佳作となっています。
現代のカウボーイ2本立て・・・
この、サム・ペキンパー監督、スティーブ・マックィーン主演の『ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦』(72年)
クリント・イーストウッド監督主演の『ブロンコ・ビリー』(80年)
と、なります。この2本はお勧めです。
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サム・ペキンパー監督の作品の中でも、特に好きな1本である「ジュニア・ボニー 華麗なる挑戦」を紹介されていますので、コメントしたいと思います。
この映画「ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦」は、"アメリカン・ニューシネマ"を代表するサム・ペキンパー監督の現代西部劇の秀作だと思います。
現代文明の中で変質しつつあるロデオに、なお昔ながらのロマンを託す男の純粋な気持ちを謳い上げていて、サム・ペキンパー監督が"本物の西部劇作家"であることを証明した作品だと思います。
そして、この映画には、西部への限りない愛情が、滅びゆく荒野への挽歌となって、脈々と流れていると思います。
この映画の舞台はアリゾナのプレスコット。
この町で、年に一度開催されるロデオ大会の光景を綴りながら、ある一家の"人間ドラマ"が爽やかに展開していきます。
ロデオは、スピード・レースなどと違って、あくまでもカウボーイの生活に結びついた、素朴な土臭い競技ですが、その全貌をこれほどうまく捉えた作品は、なかなかないと思います。
その一家の次男ジュニア・ボナーに扮するのが、スティーヴ・マックィーンで、彼がロデオ大会に出場するため、久し振りに故郷へ帰って来ますが、昔通りのものは何もないことを知ることになります。
不動産業の兄は、財産を増やすことしか関心のない俗物になっていました。
彼の最愛のロデオも、いつしか見る人の目には、時代に取り残されていく人間や、失われた価値観への飽くなき執着が心に沁みてきます。
ボナーの父親も、かつてはロデオのチャンピオンでしたが、今ではオーストラリアへ行って家畜を飼うことが、たったひとつの念願になっているのです。
無骨な頑固者ですが、根っからの西部男であり、まぎれもなき"フロンティア・マン"なのです。
デビュー以来、ペキンパー監督が好んで描き続けてきた、老西部男の一典型と言えるのかも知れません。
そして、母は気の強い女ですが、現在は長男夫婦に養われて、肩身の狭い思いをしています。
それでも、彼女はグチひとつこぼさない。
こうした父と子、母と子の心の交流を、ペキンパー監督の演出は、経済成長の波に押し流されていく西部の素朴な風土に、"愛惜の念"を込めて爽快に描き出していて、実に見事だと思います。
ボナーと父がコンビを組んで、牛の乳搾り競技に出場して負ける場面のユーモア。
中休みに、町の酒場で大乱闘が始まり、その騒ぎが国歌の演奏でピタリと静まる場面のジョン・フォード監督流のおおらかさ。
そして、賞金を獲得したボナーが、ほとんどその全額を投じて、父にオーストラリア行きの切符を買ってやり、自分は愛馬と共に去っていくラスト・シーンのほのぼのとしたセンチメンタリズム--------。
土を掘り返し、家を壊し、西部の風土を情け容赦なく破壊する文明に対する、ペキンパー監督の怒りも、端的に表現されていると思います。
主演のスティーヴ・マックィーンが、静かな中にも憂いを秘めた最高の演技を示していて、父になるロバート・プレストン、母になるアイダ・ルピノも実にうまい。
サム・ペキンパー監督の最も脂の乗り切った時期の作品だけに、アクションの豪快さ、華麗さだけでなく、失われゆく西部への哀愁、フロンティア精神は、現在も厳然と残っていることを切々と訴えかけ、そして父親への断ち難い心情なども繊細に描き出して、本当に素晴らしい、現代西部劇の秀作だと思います。
投稿: 陽炎 | 2023.04.06 23:15
陽炎さん、長文のコメントをありがとうございます。
数々のウエスタンに出演したベン・ジョンソンが馬を走らせるシーンをスローモーションで撮ってくれるのがサム・ペキンパー監督のいいところだと思いました。
全体的にもよく出来た現代のウエスタンだと思ってます。
手短な返事になりますがご了承ください。
投稿: ロイ・フェイス | 2023.04.08 17:51