『マルタの鷹』(1941年)
この作品はジョン・ヒューストン監督のデビュー作でハンフリー・ボガートをスターにしたハードボイルドドラマのようです。何故かフィルム・ノワールという感じはしない。不思議なものです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1941年 ワーナー アメリカ作品
ランニング・タイム◆101分
原題◆The Maltese Falcon
プロット◆お宝の置物マルタの鷹をめぐる話しで1週間の話しのようです。
音楽◆Adolph Deutsch やっつけ仕事の鳴っているだけで不満です。
キャスト
ハンフリー・ボガート→私立探偵のサム・スペイド
メアリー・アスター→依頼人のブリジッド・オーショネシー/ミス・ワンダリー/ミス・ルブラン
リー・パトリック→秘書のエフィ・ピライン
グラディス・ジョージ→アーチャー夫人アイヴァ
バートン・マクレーン→ダンディ警部補
ワード・ボンド→ポールハウス部長刑事
ピーター・ローレ→怪しい男ヨエル・カイロ
シドニー・グリーンストリート→太った男ガトマン
エリッシャ・クックJr.→ガトマンの用心棒ウィルマー
ジェローム・コーワン→相棒だったマイルズ・アーチャー
ジェームズ・バーク→ホテルの探偵リューク
ジョン・ハミルトン→ブライアン地方検事
ウォルター・ヒューストン→ジャコビ船長
原作でも映画でも登場しない謎の男フロイド・サースビー→正体は女には甘いあまり重要ではないキャラのようです。
原作では登場するスペイドの顧問弁護士シド・ワイズは電話でのみ登場。
ジョン・ヒューストン監督の演出はよいと思いますがローレン・バコールの自伝『私一人』を読んだせいか印象がイマイチよろしくない。他の作品も見たけどそんなに出来がいいとは思えないので監督としての腕前は?がつきます。
ところでハンフリー・ボガートが自分のプロダクションで撮った『孤独な場所で』(1950年)で演じた破滅型脚本家はジョン・ヒューストンがモデルではと思えてきました。
ジョン・ヒューストンが監督ではなくて誰が監督ならいいのか?
フリッツ・ラング監督か?ハワード・ホークス監督か?、この話しではさすがにアルフレッド・ヒッチコック監督は合わないようです。
シノプシスがOKになって、それがそのまま映画化したというエピソード。
これがホントに思える出来です。これを脚色というのか?
視覚的な演出はあまりなくて鷹の真贋がわかるシーンも何だかもの足りない。惜しいです。
この作品の原作であるダシール・ハメットの『マルタの鷹』ですが村上啓夫訳の創元推理文庫版が私の愛読書です。
そんなわけで原作と映画は別だとわかっていますがこの作品に関しては突然原作至上主義となったります。
この作品は原作を省略しすぎとも言えそうです。ただ省略ではなくてつじつまが合うように直していました。でもラストの「夢で出来ている」のセリフはいいと思います。脚本のオリジナルはここだけだったりします。
ラストの別れのシーンはどうかなと注目していました。→省略している割には結構上手くまとめていました。でも惜しいな。ここは『カサブランカ』(1942年)並みに引っ張ってほしいものです。
至るとこで原作を省略しています。スペイドと地方検事の会話で面白いセリフがあるのですけど惜しいものです。
原作を映画で省略して日本語字幕が更に省略していて、それでも面白いのはたいしたものです。この作品が面白いのは原作がよいからでしょう。
ワーナー発売のDVDにて。
画質は普通によいです。所々でばらつきはあるけど。フィルムのキズも結構ある。
スクイーズ収録のフル表示。
画面サイズはスタンダード。左右に黒味あり。
DVD音声はドルビーステレオ オリジナルはモノラルでしょう。
ワーナーホームビデオ
メニュー画面
タイトル
Warner Bros. (A Warner Bros.-First National Picture)
The Maltese Falcon
前説があります。
1539年・・・
舞台はアメリカ西海岸の都市S.F.ですがロケはしていないようで全編セットになっているようです。
スペイド=アーチャー探偵事務所にメアリー・アスター扮する依頼人のミス・ワンダリーがやってきます。
N.Y.から来た、妹を探して欲しい。フロイド・サースビーなる男が一緒にいる云々となっています。
途中から相棒のマイルズ・アーチャーが入って来ます。演じるジェローム・コーワンですが何となくビリー・ボブ・ソーントンに似ているような。キャラにはよく合っています。
真夜中のブッシュ街にて。
マイルズ・アーチャーは何者かに撃たれます。坂を転げ落ちます。
原作通りにハンドガンはウェブリーのリボルバー・オートマティックが使われていました。リボルバーでオートマティックという珍しい作動形式のハンドガンです。
→ Webley-Fosbery Automatic Revolver
寝ているスペイドに電話がかかってきます。
現場に向かいます。ポールハウス部長刑事と話します。相棒が撃たれて死んでいるのを見下ろすとこがスクプロを処理していました。
ポールハウス部長刑事と別れてから電話をかけるスペイド。
電話をかけることが多いが無駄な話しは全くしていません。
自分のアパートに戻るスペイド。
刑事2人がやってきます。フロイド・サースビーが殺された。犯人はスペイドか?となります。
この刑事2人を演じるのがワード・ボンドとバートン・マクレーンです。実にいいキャスティングです。
事務所にて。
アーチャー夫人のアイヴァが来ています。困るスペイド。
ミス・ワンダリーから電話があり、聞いた住所のアパートに向かいます。
ワンダリーのアパートにて。
本名はブリジッド・オーショネシーと名乗ります。話しを聞きます。取り合えず現金500ドルを巻き上げて事務所に戻るスペイド。
事務所にて。
ピーター・ローレ扮する怪しい男ヨエル・カイロがやって来ます。
鳥の置物を探してくれから始まって手を上げろとなります。ここはあっさりとヨエル・カイロをKOします。持ち物を調べてからまた話しをします。
最後に何気なくハンドガンを返したらまた手を上げろというオチになります。
ヨエル・カイロのハンドガンはブローニング25オートです。
→ Colt Model 1908 Vest Pocket コルトですが同じようなもです。
外出したスペイドに若い男の尾行が付きます。あるアバートを素通りしてこの尾行をまきます。
オーショネシーのアパートにて。
カイロの話しをするスペイド。
オーショネシーは色仕掛けが効かないゲイのカイロは苦手のようです。結局オーショネシーはスペイドのアパートでカイロに会うことになります。
スペイドのアパート前ではアイヴァがクルマで待っています。
ここは素通りして部屋に向かいます。
カイロがやって来ます。鳥について。オーショネシーと交渉しますが興奮して手が出たりします。
そんなとこに訪問者があります。いつもの刑事2人です。
入ろうとするがスペイドは止める。刑事は頭にきますがようやく追い返すとこでカイロが叫んで助けを求めるのが聞こえます。入り込む刑事2人。事情聴取となります。
ここは原作でスペイドの傑作なセリフがあります。
カイロに対して手が出たオーショネシーのことを「彼女はとても衝動的なんでね」と言うんです。
結局冗談ということで刑事を追い払います。カイロも帰ります。
オーショネシーから話しを聞くスペイド。まだホントのことを話さないオーショネシー。少しはホントのことも混じっているようです。
ホテル・ベルベデーレにて
尾行していた若い男と話すスペイド。知り合いのホテルの探偵を呼んで若い男を追っ払います。
カイロが帰ってきて話しをします。映画の日本語字幕では省略し英語版でも省略しているようですが原作のセリフは面白いのです。
「ごまかすには話しがバカバカしい方がいい」とか
「どもりの稽古でもしろというのか」とか。
事務所にて。
オーショネシーが待っています。アパートが荒らされたと訴えます。
これは映画では省略されていますがカイロに会った日のよく早朝にスペイドがやったのです。
そんなこんなでオーショネシーはエフィの家に泊めてもらうことになります。2人を送り出します。
アイヴァがやって来ます。刑事は私が呼んだと謝罪します。
ここも原作をはしょっています。原作ではこの後にアイヴァをスペイドの顧問弁護士の元へ行かせ隠していたことを話させて顧問弁護士からスペイドが話しを聞くことになっています。メリー・ゴー・ラウンドの例えが傑作です。
ガトマンから電話があります。会いに行きます。
ガトマンの泊っているホテルにて。
ここは唐突に交渉が決裂してスペイドは引き上げます。入れ替わりにカイロがやって来ますがスペイドは気がつかない。
地方検事に会います。
ここは原作が非常に面白いのですが映画はそれほどでもない。結局何しに行ったんだ?探偵活動の邪魔をするなと言ったみたいです。
出たとこを若い男が迎えに来ます。
またガトマンの泊っているホテルにて。ここの廊下で若い男からハンドガン2丁を奪うスペイド。2丁ともコルト・ガバメントです。
→ Colt 1911 Pistol
ガトマンと話しをします。マルタの鷹のことです。
1539年。十字軍、マルタ島、スペイン皇帝。等々。
話しの途中で薬を盛られていると気がつくスペイドですが倒れたとこをウィルマーに頭を蹴られて昏倒します。
スペイドは置き去りにされて男3人は出かけます。
目が覚めてホテルの部屋内を家捜しするスペイド。
ラ・パロマ号入港の記事がチェックされているのを見つけます。
ラ・パロマ号は炎上中です。
スペイドは火事の最中に到着しますが得るものはなく引き返します。
スペイドの事務所にて。
謎の男が謎の包みを抱えてやって来ます。これがアンクレジットで特別出演のジョン・ヒューストン監督の父ウォルター・ヒューストンです。
香港から船で来たのでちゃんと香港の新聞で包装してありました。凝っています。
タイミングよくオーショネシーから救援の電話がかかってきます。包みを抱えて出かけるスペイド。
まず郵便局に行って包みを発送します。次にタクシーを捕まえてオーショネシーの言った住所に向かいます。これは空振りでした。
自分のアパートに戻るスペイド。
アパート前でオーショネシーが隠れて待っています。部屋に入るとガトマン、ウィルマー、ヨエル・カイロの男3人が待ち伏せています。
話し会いとなります。スペイドは犯人が1人必要だと説得にかかります。もめたけどウィルマーにすることになります。
打ち合わせを続けます。この事件を全貌は?としつこく聞くスペイドです。
朝になって包みを持ってくるように電話するスペイド。
包みが到着します。
注目の中で包みを開けます。鉛製の偽物でした。この肝心のマルタの鷹の置物の出来が少し安っぽくとても財宝には見えないのが惜しい。当時のB級作品のゆえんです。
17年がどうのこうのとか責任のなすり合いをやったりと混乱中にウィルマーは逃亡していました。
残りの男2人を帰ります。すぐに警察に電話して全てを話すスペイド。
で、オーショネシーを詰問します。ホントのことは?
この別れのやり取りが非常に物足りない。
原作を省略し過ぎでしかも妙な脚色もしていて何だかわけわからん。結局単なる正義の味方みたいになっています。
もう少し原作を生かしてほしかったような。たくさんある不利なことと愛することだけの有利なことを天秤かけるという描写が抜けているのが惜しいです。
ハンフリー・ボガートは原作の設定より10歳位は歳を取っていますがはまり役です。
独特の早口な喋りを聞いているだけでいいものです。出来るならばボガートが原作のセリフを全部喋ってくれるバージョンが見たいほどです。ラジオドラマかなんかで残っていませんか?
ヒロインのメアリー・アスターは原作より歳を取り過ぎています。原作では20代前半になっています。まあいいけど。
マルタの鷹を持って来たラ・パロマ号の船長役でウォルター・ヒューストンがアンクレジットですが特別出演しています。
ウォルター・ヒューストンはジョン・ヒューストンの父です。スカイパーフェクTVで何かの作品の紹介で『マルタの鷹』のウォルター・ヒューストンなんて出ているのがあったけど、アンクレジットで顔も見せないので、そんな紹介では誰もわかりません。随分とマニアックな紹介で気に入ったものです。
尾行をまいた映画館では『ガール・フロム・アルバニー』が上映中でした。舞台かもしれません。よくわからん。
DVDの特典の『マルタの鷹』予告編で。
案内をするシドニー・グリーンストリートは喋りながら視線が忙しく動きます。なるほどこれがセリフを覚えていなくプロンプトを読んでいる状態なのかと納得します。
佳作ですが正直言ってハードボイルドでもないしフィルム・ノワールとも思えず。ハリウッドスタイルのメロドラマです。セリフ劇のメロドラマといった感じです。
そんなわけで原作優先の偏見があるとイマイチなのですが映画としてはよい作品でした。
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はじめましてお邪魔します。
映画とは関係ありませんが「マルタの鷹」の原題は「マルチーズ・ファルコン」です。犬のマルチーズはマルタ島由来の犬なのかなあ?と昔映画を見て以来気になっています。
投稿: セニョール | 2005.09.06 16:23
僕も原作のイメージが強すぎて映画版はあまり好きになれませんでした。ボギーは好きなんですが、ハードボイルド映画としては佳作でした。ちょっとぬるいというか…。小説ではチャンドラーよりハメット派の僕ですが、映画版にしては『三つ数えろ』の勝ちです(笑)。
ちなみに僕が愛読している『マルタの鷹』は、早川書房の小鷹信光役版です。その為か若干キャラクターの名前の訳し方が違うのだと解りました(僕が観たDVDの字幕も早川版と同じ訳)。
エフィ・ピライン→エフィ・ぺリン
ポールハウス部長刑事→ポルハウス
ヨエル・カイロ→ジョエル・カイロ
ガトマン→ガットマン
リューク→ルーク
投稿: ショックレー | 2013.12.08 02:18
ショックレーさん、コメントありがとうございます。
映画ですが私も『三つ数えろ』の方はハワード・ホークス監督なので出来はいいと思います。大ざっぱだけど何故か引っ張る演出で全然違います。
私は村上啓夫訳の創元推理文庫版の固い直訳調がよかったりします。これは勝手な好みだと思ってください。
カタカナ表記は何かと悩ませます。
一文字違うだけ検索がヒットしないし・・
しかしジェームズ・スチュアートがスチュワートになるのは語感がイマイチで納得出来ないとこです。
そんな感じであまり検索結果に振り回されずに気に入ったカタカナ表記にしています。
投稿: ロイ・フェイス | 2013.12.08 22:16