『救命艇』(1944年)
この作品は戦時中に製作されたアルフレッド・ヒッチコック監督にしては風変わりな戦争物の異色ドラマのようです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1944年 20世紀フォックス アメリカ作品
ランニング・タイム◆96分
原題◆Lifeboat
プロット◆難破して救命艇で悪戦苦闘する話しのようです。
音楽◆ヒューゴー・フリードホーファー
1995年にBS2で録ったVHS標準録画を見ました。画質はあまりよくない。これならスカイパーフェクTVで取り直した方がよかったようです。DVDでは出ていません。
キャスト
タルラ・バンクヘッド→ヒロインの作家コニー・ポーター
ジョン・ホディアク→船員のコバック
ヒューム・クローニン→船員のスタンリー
ウイリアム・ベンディックス→船員のガス
ヘンリー・ハル→会社社長のリッテンハウス
メアリー・アンダーソン→看護婦のアリス・マッケンジー
ヘザー・エンジェル→赤ん坊の母のヒギンズ夫人
カナダ・リー→黒人のジョー・スペンサー
ウォルター・スレザック→ドイツ人のウィリー
アルフレッド・ヒッチコック監督の演出はよいと思います。
普通の戦意高揚物ではなくてかなりの異色作になっています。
救命艇が舞台なので全編スクリーンプロセスで演出の手法といっても変則ではなくて何一つ変わったことはしていないのに見てて結構引っ張られます。
音楽が使われているのはタイトル直後までで話しが救命艇内になってからは使われていません。
この作品は全編セットとスクリーンプロセスで撮っているはずです。
グリーンバック、CG、デジタル合成、これらの現代の撮影技術があればもっと上手く撮れていたでしょう。
本『映画術』で言ってた通りドイツ人を優秀にそして冷酷に描写してます。救命艇の中でこの艇を操縦出来る訓練を受けてるのは最初は素性を隠しているドイツ人だけという設定で、それで救命艇はかなり損傷を受けていて飲料水がなく。方位磁石が壊れていると言う設定。
タイトル
船の煙突のクローズアップ。汽笛も入っています。汽笛が鳴りっぱなしになっている状態でした。結構凄い。
タイトル部分だけ音楽が入っています。
煙突が傾いてちゃんと沈没の描写となっています。ここからオーバーラップしてワンショットに見せて漂流物のシーンから救命艇へとつながっています。上手いじゃん。
始まってタイトルバックに船の煙突のクローズアップが映っててタイトルが終わってカメラが引くと沈没寸前の船だったということになっています。こういうとこがアルフレッド・ヒッチコック監督らしくていいです。
アルフレッド・ヒッチコック監督が得意の説明セリフではなくカメラの動きで状況を紹介する手法が使われていました。これはあまり手際よくやり過ぎて次々と漂流物等が流れてくるので『裸の銃を持つ男』シリーズのZAZ作品のようなギャグになりそうです。
救命艇にはタルラ・バンクヘッド扮するヒロインのコニー・ポーターだけが乗っててそれから難破した人が次々と流れ着きます。
→1人、ジョン・ホディアク扮する船員のコバック。
→1人、ヒューム・クローニン扮する船員のスタンリー。
→3人まとめて、ヘンリー・ハル扮する会社社長のリッテンハウスにウイリアム・ベンディックス扮する船員のガスとメアリー・アンダーソン扮する看護婦のアリス・マッケンジー。
→2人と赤ん坊、カナダ・リー扮する黒人のジョー・スペンサーに抱えられたヘザー・エンジェル扮する赤ん坊を抱いたヒギンズ夫人、赤ん坊はすでに死亡していました。
→最後に1人、ウォルター・スレザック扮するドイツ人のウィリーが流れ着きます。ドイツ人とわかるのは「助けてくれてありがとう」とドイツ語で喋ったからです。ここで船内の雰囲気が凍りつくことになります。で、全員そろったとこで溶暗となりシーン転換します。この他にも溶暗が効果的に使われています。
ドイツ人が1人に対する8人でどうするで話しは進みます。
ドイツ人は捕虜だから始末すればいいとか当局に引き渡すまで保護するべきとか議論しますが決する人がいないというか出来ないようです。異色なアメリカ人達です。
すでに死んでいた赤ん坊は水葬にしたけれど母親の手は抱いてる態勢になっています。結構凄い。
1シーンが終わるたびに溶暗になっています。効果充分です。
一晩あけたら母親がいない。イスに縛りつけてあったけど・・・、ロープが海に入っています。このロープの先に母親がいるのでしょう。
ロープを切断しています。
ドイツ語の喋れるタルラ・バンクヘッド扮するヒロインのコニーが通訳を務めます。
赤ん坊が死んでいると知った母親は入水自殺を計ります。コニーが貸したミンクコートと共に海に消えます。赤ん坊の名はジョニーとなっていました。
ドイツ人だけが方位磁石を隠し持っていることは観客にだけわかるように見せています。これだけでサスペンスとなるんです。
羅針盤が壊れていることもあってアメリカの船員3人は針路が決められない。
それで針路を聞かれてとぼけるドイツ人となります。この設定にはアメリカ人観客にはしゃくにさわるでしょう。
アルフレッド・ヒッチコック監督が登場の図です。
ガスの読んでる新聞の広告に出ています。ホントに一瞬です。
バミューダに行けばいいなんて言っているので大西洋のどの辺だ。N.Y.から出港では北過ぎるような感じもする。カリブ海辺りか?
ストッキング、カメラ、ミンクのコート、ひざ掛けの毛布、タイプライター、ここまで無くしているヒロインのコニー。
いきなりキャプテンと呼ばれて思わず返事をしているドイツ人のウィリー。このドイツ人は潜水艦Uボートの艦長ということらしい。
ガスの脚の具合の辺りから英語を聞いただけでドイツ語で返事をしていました。通訳なんて要りません。そのへんで気がつけよアメリカ人達・・・。
ケガをしている船員のガスの脚を切断するかしないで一悶着あります。
手術前の酔っぱらっているガスにキスをしているヒロインのコニー。いいキャラしています。
ガスをブランデーで酔っぱらって言いたい放題となっています。
手術になったとこで、こういう時に限って海が荒れてきます。
必死で舵を操作している船員のスタンリー。
また溶暗となっています。
隠し持ってるコンパスを見ているドイツ人のウィリー。
船員のコバックは疑っているのけど確信があるわけではない。
アメリカ人達は進路がわからんという状況なのがこまったものなのです。
夜、星が出ています。
船員のスタンリーと看護婦のアリス・マッケンジー。この方向ではバミューダには行けない。星の位置が違うことに気がつきます。東に向かっているようです。そうなると太平洋の真ん中に出てしまいます。
救命艇の向きを変えている船員のスタンリー。
ドイツ人のウィリーが怪しいと相談中のアメリカ人達。
いくら相談しても結論が出ません。
で、黒人があのドイツ人は時間を聞く癖に時計を持っているとなります。それらスって確認しようとなりま黒人が昔とったきねづか技でスリとります。結構は時計ではなくコンパス=方位磁石でした。
ですが嵐が接近し海が荒れてきます。
ここでドイツ人は英語が喋ることが出来ることが暴露されてその的確な指令を聞かざるにえなくなります。
嵐が去った後はドイツ人の支配する救命艇となります。この話しの展開では当時のアメリカでは興行的にイマイチなはずです。
嵐の中ドイツ人のウィリーが舵をとり大水で沈没しかけてる救命艇。ドイツ人が英語で指揮をとっています。
コニーのトランクが流されます。食料も水も流される。マストも折れます。
大波がかかってオーバーラップとなりシーン転換しています。
嵐が収まった海にて。
ボートを漕いでるドイツ人のウィリー。いきなり元気になっています。
リコーダーを吹いてる会社社長のリッテンハウス。ドイツの歌です。
ヒゲの伸び具合から日にちが経過しているようです。
ガスが野球を見に行くと言い出しています。
またおかしくなったと他の方々。
食べ物のことで口論となるアメリカ人達。
ポーカーにて。
2のフォーカードで大きく出る会社社長のリッテンハウス。相手は船員のコバック。
ところがせっかくいいことろだったの風でカードが飛ばされて台無しとなります。これにはヒステリーの会社社長のリッテンハウスです。
そんなとこに待望の雨が降ってきます。
大急ぎがシートを張りますが通り雨ですぐやんだ。
海水を飲もうとするガス。
ガスはドイツ人のウィリーが隠し持っている水を発見したので暗示をかけされて海に突き落とされてしまったようです。
さすがに頭にきた他の6人からリンチされてウィリーは海に落とされます。ここでは片足が不自由なのが実は本物なウィリアム・ベンディックスが大熱演でした。
ドイツ人のウィリーをリンチした後で・・・
ドイツ人は理解出来ない。救助して水も食料もやってのに何で裏切ったと嘆くアメリカ人達です。
ドイツ人を退場して針路も決められずに漂流する救命艇。
サカナを釣ろうとブレスレットをルアー替わりに使います。サカナがかかるとこで初めてカメラが救命艇の外に出ています。この作品は救命艇からカメラが全然出ないで撮られているとのこと。それに救命艇でのシーンでは音楽も使われていないとのことです。
サカナが釣れかかったとこで救命艇はドイツ補給船と遭遇する。
この魚ですが何だか川魚のような感じがする。とても海の魚には見えないぞ。
まあいいけど。
そんなとこで船が見えてと大騒ぎとなってその隙に魚を取り逃がしてしまいます。釣り糸も針もルアー代わりにしたブレスレットも失います。
これにはヤケになって大笑いのヒロインのコニー。
やはり針路はドイツ軍の方に向かっていたことになります。
救助ボートが向かってきますが灯火信号で呼び戻されています。
これまでと思ったとこで遠方から友軍の砲撃が始ります。
ドイツの補給船が救命艇に接近してきます。ここは何となく『マタンゴ』(1963年)にあるシーンと似ています。
ドイツ補給船は大爆発で沈没しています。
スクリーンプロセスにミニチュアですがヒッチコック監督作品には珍しい砲撃から着弾にドイツ補給船の爆発炎上沈没のスペクタクルシーンが見られます。
友軍の軍艦も来るようです。
これで一安心というとこで救命艇にまた遭難者が辿りつきます。これが若いドイツ人水兵で害はなさそうですが、ハンドガンを構えますが撃てる状態ではない。すぐにハンドガンは取り上げられます。
で、今度はどうしよう?。この救命艇で死んだ人達はどう思うだろうと余韻を持たせてエンドとなります。
主演のタルラ・バンクヘッドさんは高飛車な感じがいいです。1930年代では実生活でぶっ飛びな言動で有名だった人らしいです。
この作品ではシカゴの南から北へ移ったことで生活水準が上がったとなっていました。そういうものらしい。仕事は有名ライター?で作家のような記者のようなライターのようです。自分のルックスも売りにしているようです。
顔のクローズアップの時はソフトフォーカスのサービス付きになっていました。
で、タルラ・バンクヘッドはアンジェリーナ・ジョリーにソックリです。逆だけど。
ヒッチコック監督はキャロル・ロンバードやタルラ・バンクヘッドのような自分の好みではないアメリカ型の個性派女優さんに対する意見はどうだったのでしょう。興味深いとこです。
ヘンリー・ハル扮する会社社長のリッテンハウスと調子のいい奴でやたらと現場をし切りたがるくせに肝心の実際の能力がなかったりします。し切る能力だけはあるらしい。状況が変わるとドイツ人のご機嫌取りをしたりといそがしい人でした。
25分頃にヒッチコック監督が新聞の広告で登場します。本『映画術』のスティルであらかじめ知っていないと一生気がつかなかったとこです。
中国は人口4億の市場とこの頃から言われているようです。
そして未だに市場になり得ていないような。中国は過大評価されているんだと思う。今は人口何億だっけ?
MLBの話をしててセントルイス・カーディナルスのことが出てきて字幕にはないけどスタン・ミュージュアルのことも言ってた。ドジャースの話題も出ていました。この頃はまでN.Y.のブルックリン・ドジャースだった。私はブルックリン・ドジャースと好きだけどL.A.に移転してからはあまり好きではなかったりします。
そんなわけでヒッチコック監督にしては異色なよい作品でした。
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