『ゲッタウェイ』(1972年)
この作品はサム・ペキンパー監督、スティーブ・マックィーン、アリ・マッグロウ主演の逃走アクションです。
私の大好きな作品の感想です。なおこの文はネタバレ全開となっています。
サム・ペキンパー監督独特のスローモーションにカットバックを組み合わせる斬新なアクション描写がよい作品なのです。
1972年 デビット・フォスタープロ/ソーラー・プロ/ファースト・アーティスツ/ワーナー アメリカ作品
ランニング・タイム◆123分
原題◆The Getaway
プロット◆組織や警察から逃げる2人の話しのようです。◆夫婦げんかしながら逃走する話しでもあるようです。
音楽◆クインシー・ジョーンズ
ワーナー発売DVDにて。画質はよいけどそれほどでもないです。
キャスト
スティーブ・マックィーン→凄腕のドク・マッコイ
アリ・マッグロウ→ドク・マッコイの奥さんキャロル
アル・レッティエリ→凄腕な筈のルディ・バトラー
ベン・ジョンソン→顔役ジャック・ベニヨン
ジョン・ブライスン→ベニヨンの後がまに座る男
ボー・ホプキンス→チンピラのフランク・ジャクソン
サリー・ストローサーズ→獣医の妻フラン・クリントン
ジャック・ドドソン→気の毒な獣医クリントン
リチャード・ブライト→駅の置き引き
ダブ・テイラー→ラフリンホテルの主人ラフリン
スリム・ピケンズ→トラックの老運転手
サム・ペキンパー監督の演出はよいと思います。
脚本はウォルター・ヒルです。ウォルター・ヒルは監督をするようになってもサム・ペキンパー監督の影響が多く見られます。
全編に渡りやたらとカットバックしてて2ケ所3ケ所現在過去とカットバックする腕前には感心します。どれくらいカットバック出来るかの実験作とも思えてしまいます。カットを割る数が多ければいい訳ではないけど。これは傑作です。
カットバックに効果音が追い付かないくらいのごちゃまぜぶりです。ホント変な作品です。
どのようにカットバックさせるのは監督のセンスにかかっていて特に手順が決まっているわけではないのです。ですからこのスローモーションにカットバックを組み合わせる手法はサム・ペキンパー監督だけに出来る手法ということになります。
その全編入り乱れるショットに効果音はひとつの映画的手方の極致です。
カットバックの原則は効果音は1本でショットが入り乱れるようです。これを見てフィルムが間違ってつながっているのではなんて思う人はいるかな?この作品は新しいモンタージュ手法の実験作と言ってもいいと思えます。
話の方のカットバック。
銀行強盗後の合流場所の腕自慢ルディの面目形無しの図からマッコイとルディ2人の行動の描写がカットバックになっているようです。
サム・ペキンパーは撮影のロスが多いと思います。
髪の毛が濡れたままのシーンとか、遠くに煙がたなびいているシークエンスとか、スタッフは大変なのではと思わせます。
意外とウェットな描写も多い。登場するキャラクター達はハードボイルドではなかったりします。
クインシー・ジョーンズの音楽がシーンと合っているか?→何ともいえない感じです。音楽と映像が一体となっている『ダーティハリー』(1971年)と比べれば後付けのような感じがします。
『ダーティハリー』はサソリがヘリコプターに発見されて狙撃を中止するシーンやスタジアムのライトが次々と点灯されていくシーン等ホトンドミュージカルなのが見事なものです。
サム・ペキンパー監督の責任ではないのですが。実は音楽はサム・ペキンパー組のジェリー・フィールディングだったのがスターの意向でクインシー・ジョーンズにと交代となったとのいわく付きです。
タイトル部の刑務所全景は作画合成に見えます。
最初のタイトルからカットバック全開となっています。頻繁に挿入されるカットインは心ここにあらず。と言うことのようです。
鹿のショットが入ります。鹿は女性のシンボル。てことはアリ・マッグロウのことなのかとようやく気がついた。だからスティーブ・マックィーンとカットバックになってるんだ。ここのシーンでは自動織機の効果音が上手く使われています。
出所して水遊びをする2人のシーンでは水に飛び込む前にもう飛び込んだ後のシーンが先に出ている時間が逆転する手法が使われていました。これは感情の先走りを描写しているかもしれません。結構ロマンティックの描写です。サム・ペキンパー監督はこういうのも撮れるのです。
銀行強盗の準備をします。
ここでもカットバック全開となっています。
当てにはならない手下2人を押し付けられます。アル・レッティエリ扮する凶暴なルディとボー・ホプキンス扮するボンクラなチンピラのジャクソン。ここでルディが「防弾チョッキなんていらねえ」とかまします。これが前振りとなっています。
銀行強盗をします。
銀行強盗はなるべく殺しは避けたいとよく伝わってきます。別に良心がとがめるのではなく追跡捜査がきつくなって捕まると罪が重くなるからだと思われます。
ルディは銀行強盗の役割はちゃんと果たしています。やることはやっているようです。でなければとっくの昔に死んでいます。
金庫に入ってるが75万ドルの予定が50万ドルしかありません。
凶暴なルディが銀行強盗でヘマをやらかしたチンピラのジャクソンをクルマを運転中に始末するシーンと陽動のための時限爆弾の爆発シーンとのカットバックが出色の出来です。ここがこの作品の白眉です。
これは当時流行っていた変則にカットインする手法がサム・ペキンパーの資質に実に合っていたからだと思われます。これを見てるとボンクラな監督の脚本の通り撮ったカットバックなんかとても見るに堪えなくなります。
クルマから放り出されたチンピラのジャクソンの死体の側を子供が歩くシーンをスローモーションで短く入れるのがサム・ペキンパー監督の真骨頂といった感じです。このようなセンスは誰にも真似は出来ないでしょう。
銀行強盗後の合流場所でスティーブ・マックィーン扮するマッコイが先に抜いてきたルディに撃たれる前に左手に持ったコルト・ガバメントで連射するとこがこの作品の最も美しいシーンです。
これに至る前にはすでにチンピラのジャクソンが死んでいるとこを見ていたから全く無警戒で合流した訳ではないようです。
そしてリボルバーを向けられたらすかさず最初は左の腰だめで連射し(利き腕でないから相手も油断する、そして利き腕でないから一撃必中ではなく体の中心部に連射するわけです。)ルディが倒れたとこを右手に持ち直し首の部分を撃ってとどめをさします。ディテールがリアルさには感心します。ここで狙いつけるとこでスティーブ・マックィーンの利き目は左というのがわかります。
ルディは防弾チョッキはいらないと前振りがあったので身体に4発くらっていて、とどめに首筋に1発食らっています。防弾チョッキは無しとなっていて急いでいたのもあってルディが確実に死んだか確認するのをマッコイが怠ったのは責められないでしょう。
この作品でのディテールのリアルさの大半はスティーブ・マックィーン本人のリサーチのたまものでしょう。サム・ペキンパー監督の性格からしてサム・ペキンパー本人が指示したとはどうも思えない。スティーブ・マックィーンは自分でホントに撃つしホントに運転もしていると見てて判ります。ラストで安全確認をして道路に出るとこなんてその一例になります。
スティーブ・マックィーンは撃つ必要がないときにハンドガンの引き金には指をかけていません。これはハンドガンの扱いの基本の筈です。
ホテル内で銃撃戦でショットガンの銃口がアリ・マッグロウに向かないように扱うとこも銃器の扱いの基本です。
ベン・ジョンスン扮する大物だと思われた顔役ベニヨンはあっさりと退場となります。ボスが交代となります。「find」のセリフ。
ここから50万ドルを持って逃亡することになる2人。
道路から外れてクルマを止めて奥さんをひっぱたく夫の図。
一方的に叩くだけでマッコイ。1970年代の頃の作品です。というよりスティーブ・マックィーンのスター映画という1面があるせいなのでしょう。
ここまでクルマ使うシーンが多いのでやたらとクルマのドアを開け閉めするとこが印象に残ります。マイナスというわけではないです。
こそ泥を追うドク・マッコイ。「find」のセリフ。何とか取り返します。
列車内でのかばんの追跡サスペンス。
ここで黒人の子役を使っています。憎たらしい子役です。でも黒人だから憎たらしいのではなくて単に憎たらしいだけの子役です。サム・ペキンパー監督は子役を使うの好きです。
列車でこそ泥をとっつかまえたがそこから足がつくマッコイ。
こそ泥がいい味を出しています。かばんを開けたら100ドル紙幣の札束がうなっててビックリします。その後は警察に協力したのに逮捕されてガックリといい感じです。
ルディ、獣医夫婦を脅してクルマでエルパソへと向かう。
獣医のクルマはステーションワゴンで後部座席と荷室を金網で区切ってあります。獣医と職業に合っているクルマとなっています。このへんのディテールはアメリカ作品のいいところです。
逃走途中にラジオを買いに行くがすでに手配されていて、見つかったとこでパトカーをショットガンで破壊のシーンがあります。素晴らしいシーンです。
ショットガンを買ってすぐに使用する設定となっています。これはヘタするとギャグになりますがこの作品はそうではありません。
12番ゲージのポンプアクションのショットガンでOOバックの散弾を使用。これはショットガンアクションの基本の設定。
いったんクルマで町を出ますが長距離バスに乗り換えて町に戻って警察をやり過ごします。またクルマを買います。2800ドルのマーキュリー。
ハンバーガーショップにてのパトカーとの撃ち合い。何ですぐにばれるとうんざりしながらショットガン連射の図となります。
夫婦げんかしながら列車とクルマでエルパソへ行く2人です。
ゴミ収集車に隠れて逃亡というか運ばれてしまう2人。ちゃんと廃棄されます。
エルパソのロクリンホテルに着くルディと元獣医夫人。
ドク・マッコイとキャロルも遅れてホテルに着きます。
サンドイッチの配達を装ってドアを開けさせようとするルディと元獣医夫人。口車が勝負の面白いシーンです。
ルディを昏倒させて至近距離からガバメントを撃とうする時に手をかざすのは返り血や肉片を浴びないためです。結局撃たず。
ホテルロビーにてドク・マッコイとキャロルは追っ手御一行と遭遇します。
ホテルにやってくるコンバーチブルには10人位乗ってると思ってたけど6人でした。→クルマに6人+ホテルで見張り1人で計7人と激しく撃ち合います。
それとアル・レッティエリ扮する凶暴なルディがいます。
撃ち合い開始の描写はムダな説明セリフはなく奥さんを連れたマッコイの出くわしたくはなかったんだよといった感じのショットから双方をカットバックしてマッコイのショットガンを被っていた布がハラリと落ちたとこから撃ち合い開始でした。人間の目は動く物に引きつけられる。これもいいシーンです。
撃たれた手下の1人が苦し紛れにサブマシンガンを乱射して雑誌棚を撃つとこをスローモーションで撮る一見ムダなような感じがするが効果的なシーンです。これも誰にも真似が出来ないサム・ペキンパー監督ならではなとこです。
階段を転がり落ちてショットガンでとどめをさされる手下のシーンも凄いものです。ショットガンで撃たれた時のリアクションで痛そうな感じがよく描写されています。
惚れた女房に銃を向ける奴にはショットガンでOOバックを余計にお見舞いするとこもいい感じです。
ショットガンを撃ち尽くしてコルト・ガバメントに換える無駄のない動きが見事です。
そんな感じに最後までカットバック全開となっています。これは凄いです。
おっさんを脅かしてボロトラックを走らせる図。
あまり驚いていないおっさんが急発進させ段差を激しく下ります。何故かボロトラックから落ちた空き缶が転がる音が印象に残ります。
おっさんから別れの挨拶で「ヴァイア・コンディオンス」のセリフがあります。
この作品のマイナスポイントはアル・レッティエリ扮するルディの確信人間ぶりぐらいです。それも慣れた感じです。確信人間とはコリン・ウィルソンの本によく出てくる言葉で何があっても自分は正しいとしている人間のことをいいます。
ルディの非道ぶりが見ものになるかも。クルマにて悪ふざけ過ぎてマジになって怒りまくるシーンがハイライト?おっかないような情けなくも悲しいシーンですが、よく考えれば傑作なシーンだと思います。
この種の人間をただカッコよく普通の人間より優れていると描写しないとこがサム・ペキンパー監督のいいとこです。上手くは書けませんがそんな感じがします。サム・ペキンパー本人はどちらかというとその確信人間そのものと思われますがその確信人間のことをかっこよくは描かないホントに変な監督です。
スティーブ・マックィーンは1970年代のジェームズ・キャグニーなのかなと思います。さすがに歌って踊りはしないけど、小柄の体にキビキビとした動きがポイントです。結構女々しい男だと和田誠の本『お楽しみはこれからだ』に載ってたと記憶してる。字幕では分かりにくいけどホントそうです。
スティーブ・マックィーンの出演作はかなり見ています。『絶体の危機』(1958年)はもちろん『ガールハント』(1961年)だって見てます。
IMDbで調べるとアリ・マッグロウは驚くほど出演作が少ない。こんなに少ないのかとホントに驚きます。アメリカンネイティブ系が少し入っているのが特徴の美人です。
マッグロウのこの作品でのハイライトは銀行強盗後の合流場所で銃撃戦が始まると予想してクルマの助手席に伏せるショットです。パタンと倒れる感じが非常によろしい。このショットでヒロインは状況判断が出来ていて少なくとも足手まといにはならないとわかります。アリ・マッグロウのベストショットと思えます。このショットを挟むのがサム・ペキンパー監督の真骨頂です。
マッグロウはこの作品のために運転免許を取ったそうですがそんなに下手くそには見えない運転ぶりでした。これはサム・ペキンパー監督がそのように撮ったのでしょう。
ベニヨンの後がまに座る男を演じるジョン・ブライスンは実はサム・ペキンパー監督の知人の素人だそうです。途中からどんどん出番が増えてしまい本人は必死だったとのことです。顔役ベニオンの弟との設定のようです。
スティーブ・マックィーンのハンドガンはコルト・ガバメントです。
箱みたいな全体の形と、どんぐりみたいな実包の不細工なオートマティックのハンドガンというイメージがあまり好みではなかったコルト・ガバメントを見直したのは一連のサム・ペキンパー監督作品のおかげです。
アリ・マッグロウのハンドガンはブローニング380オートです。
このハンドガンは38口径とはいえ威力がやや落ちるのでショートリコイルではなくブローバック作動のオートマティックです。
M2ライフルは防げる防弾チョッキとのこと。M2カービンのことなのかな。てことは自動小銃弾は防げないことになります。
ルディのハンドガンはコルト・パイソン357マグナムのリボルバーです。
ホテルにて撃ち合う連中はリボルバーばかりですが手下の逃がされる若い男のハンドガンは何故かリボルバーではなくオートマティックでした。主役のスティーブ・マックィーンは別としてこの男だけがオートマティックなのは何か意味があるのでしょう。
ショットガンを発射した後に空薬莢の転がる効果音がありました。
空薬莢にこだわる押井守監督より凝っているじゃない。1972年の時点でもうやっていたのですか。さすがサム・ペキンパー監督です。
別れの挨拶の言葉「ヴァイア、コンディオス」は『バニシング・ポイント』(1971年)でも使われていました。メキシコ系の人の常套句なの?
1970年代の作品なので、ミニスカートの人がよく見られるのはやっぱりよいです。
「オペレーター」のセリフはこの作品に3ヶ所出てきます。ラジオを買うとこ、ショットガンを買う?とこ、ホテルにてフロントのオヤジが助けを求めるとこです。それでこのセリフが印象に残っているんだ。
カーアクションのスタントドライバーは『バニシング・ポイント』(1971年)と同じ人が担当しているようです。そんなわけで似ているカーアクションもあります。スピンターンして引き返すとこ等。
風変わりな作品で夫婦メロドラマとアクションが一緒になっています。
1970年代のアメ車が好きになる作品でもあります。カーアクションがカッコよく描写されています。
そんなわけで斬新なアクション描写が特徴の傑作で何回見ても素晴らしい作品です。
« エミー・ロッサムに関する二三の事柄 | トップページ | 『探偵物語』(1951年) »
「映画」カテゴリの記事
- 『彼らは忘れない』(1937年)(2022.02.27)
- 『ギャングを狙う男』(1953年)(2022.02.26)
- 『ブラック・リッジ』(2020年)(2022.02.20)
- 『フローズン・ストーム』(2020年)(2022.02.19)
- 『私は逃亡者』(1947年)(2022.02.13)
「1970年代」カテゴリの記事
- 『見えない恐怖』(1971年)(2021.11.27)
- 『危険な愛の季節』(1975年)(2021.06.19)
- 『サイコマニア』(1972年)(2020.06.07)
- 『殺人ブルドーザー』(1974年)(2020.06.06)
- 『キラーカーズ パリを食べた車』(1974年)(2020.04.05)
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 『ゲッタウェイ』(1972年):
» ゲッタウェイ 魅惑のシークエンス [WHAT'S FASHIONABLE]
いよいよ追われる身となったことを覚悟して、ライフル銃を手にするスティーブ・マックィーン。しかし人に危害を加えることはない。パトカーに向けて効果的な攻撃を加えた後、アリ・マックグロウ運転の車に乗り込むはずが、彼女が発進でいつも焦る性格のため、バックしてしまう。
かかえた銃がドアにはさまれ、転倒する。
その絶妙のタイミング。ブラックスーツ、タイトなパンツの軽快なスタイルがピタリとはまる不思議な魅力。何度も見返してしまう、興味深いシーンだ。
そして、ハンバーガーショップでパトカーをふりきるシ... [続きを読む]
コメント