『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)
『ダイヤルMを廻せ!』
この作品はアルフレッド・ヒッチコック監督、レイ・ミランド、グレース・ケリー主演の倒叙形式サスペンスです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1954年 ワーナー アメリカ作品
ランニング・タイム◆105分
原題◆Dial M for Murder
プロット◆自分の妻を亡き者にしようと亭主が奮闘する話のようです。
音楽◆ディミトリ・ティオムキン
ワーナー発売のDVDにて。画質は非常によいです。在庫のLDの画質はよくはない。
画質がいいとスクリーンプロセスがそんなにあからさまに見えない。これは面白い。
キャスト
レイ・ミランド→元テニス選手には見えないトニー
グレース・ケリー→トニーの妻で金持ちのマーゴ
ロバート・カミングス→探偵小説家のマーク
アンソニー・ドーソン→やくざな男で雇われ殺し屋スワン
ジョン・ウイリアムス→意外と冴えてるハバード警部
パトリック・アレン→ハンドバッグのパーソン刑事
ジョージ・リー→階段のウィリアムス刑事
レオ・ブリット→パーティでよく喋る男
私の大好きな作品です。この作品はアルフレッド・ヒッチコック監督がワーナーとの契約でもう1本撮ることになっていたため撮ったやっつけ仕事の作品だと本『映画術』では言ってます。それにしては出来がよすぎるような気がします。
見ている人だけ犯人がわかっている倒叙形式のサスペンスです。
アルフレッド・ヒッチコック監督の演出はよいと思います。
何となく見やすいのもありヒッチコック監督作品の中で一番見た回数が多い作品でもあります。15回くらい見ています。
編集、効果音等、タイミングが非常によいのがこの作品の特徴です。
計ったようにではなく、ホントによく計って演出しているのです。この全てエモーションの為のタイミングのデザインが素晴らしい。
描写バランスはバツグンです。スパッと終るラストの処理なんかいいものです。ここでボンクラ監督だと長々と告白タイムになったりします。
レイ・ミランドが淡々と常軌を逸して行くのが、この作品の白眉です。
でまかせ、口車の連発、まあすごいものです。元テニスプレーヤーに全然見えないのはご愛嬌となります。
スクリーン・プロセスで始まり、スクリーン・プロセスで終わります。スクプロがよく使われています。
スクリーン・プロセスからセットにやってくるグレース・ケリーという手法があります。アパートの前でクルマを降りて玄関までやってくるとこがスクリーン・プロセス、間に1ショット入ってセットのアパートに入ります。これは早撮りのためだと思われます。
ヒッチコック監督がステディカムとグリーンバックのデジタル合成を使えればよかったのにと思えます。
移動撮影で有名なヒッチコック監督ですがまだステディカムが発明されていなかったのでステディカムは使っていなかったのです。
プロローグは少し凝っていてキスの流れからどんな関係なのかを描写しています。
スクリーンプロセスが多い。ロケはなくて全部セットとなっています。
グレース・ケリー扮するトニーの妻で実家が金持ちのマーゴは不倫相手のロバート・カミングス扮する探偵小説家のマークを相手に話します。突然テニスをやめた夫トニーのこと。1通だけ残したマークからの手紙のこと。盗まれた手紙に脅迫されたこと。
そこにレイ・ミランド扮する今話していたトニーがやたらニコニコして登場します。
正直言って元テニス選手には全然見えません。ミスキャストになるとこをスターの魅力で押し切ります。ところでこの元テニス選手ですが実在の選手だとすると誰にあたりますか?→テニスを引退した後はテニス協会役員が似合うタイプです。そんな人はいないか。それでもティム・ヘンマンあたりは合いそうです。
→そうなるとこの作品のリメイクがあるとすればティム・ヘンマンに似ているケビン・ベーコンが主演に決まりです。
トニーは調子いいことを言って2人を送り出します。とたんにニコニコはやめて電話をかけクルマを買うと称して男を呼び出します。
この作品は金曜の夜から話しは始まるようです。
電話を終えてから指紋隠しの手袋を置いて、ここで溶暗が入る。で、ステッキをとります。これは時間経過の描写でした。
ステッキをとったらすぐにスワンが来てます。
しばらくしてアンソニー・ドーソン扮する色々な名を騙る男スワンがやって来ます。
話しをしていてうちに大学のパーティでの写真の中にヒッチコック監督登場となります。洒落ています。このことは本『お楽しみはこれからだ』で知ってから見てわかりました。知らないで見てたら一生気が付かなかったかもしれません。
一方的に話しをするトニー。
夫婦仲のことから始まって延々と続きます。妻を尾行するトニー。話しの内容はプロローグでマーゴが話したことをトニー側から見たことで上手い対比になっています。立場が違うとこうも違うことになるのかは感心します。90000ポンドの遺産が目当てのトニーです。
トニーがフェイクでステッキを持っているのはどれくらいか注目してたら19分にステッキを置きました。ここも説明セリフなしでスワンのリアクションショットで処理しているのが素晴らしい。
トニーはby the wayとよく言ってます。決まり文句です。元テニス選手ですからもっともらしくラケットを持った写真なんか飾ってあります。でもそんな風には見えなかったりします。
トニーは自分の妻だけではなくスワンのことも尾行して事細かに話しします。スワンは「世の中そんなものさ」と返します。
気の毒なミス・ウォレスのこと。アパートを持っているミセス・ヴァン・ドーンのこと。クルマはミセス・ヴァン・ドーンの物で800ポンドを1100ポンドと言って売ろうしているスワンです。差額を頂戴しようということのようです。気の毒なミス・ウォレスは薬の飲み過ぎの事故で死んでいます。これはスワンがやったらしい。
1000ポンドが殺しの報酬で前金が100ポンドとのことです。
スワンは最初は断ります。理由は良心が咎めるわけではなくて報酬が少ないからだと。こまったものです。明日決行だとなっています。進行が非常に早い。
それまではカメラの位置は低かったのですが殺人の打ち合わせで部屋の配置等の話しになると配置がわかりやすいように俯瞰になります。これが探偵小説ファンに受けるとのことです。
彼女は「何も言わんよ」のセリフがあります。
この作品はセリフは多量にありますが、決めは視覚的に描いているのがヒッチコック監督のいい所です。
あれだけセリフのやり取りがあったけどスワンが前金100ポンドを懐に入れることによって説明セリフなしで殺しを引き受けたとわかるようにしてあります。
トニーが自分の妻の話しからスワンに自分の妻の殺しを引き受けさせるまでの一連のシーンがこの作品の白眉です。
脚本もいいけど何も変わったことはしていないけど引っ張る演出もいい。カメラはやたらと移動していません。
ここを勘違いしている監督が多い。でもブライアン・デ・パルマ監督のことではありません。ブライアン・デ・パルマ監督はまともではないが勘違いはしていないと思えます。
次の日の決行当日になり自分の予定通りにマーゴをアパートに引き止めようと奮闘するトニーです。肝心のマーゴのカギを手に入れるのに小細工しています。
カギを2人の前で気づかれずにどうやって隠すか?これも見物です。
で、マーゴを残して出かける時は少し長めの別れのキスとなります。帰宅した時は死体となっているはずなの名残惜しいのでしょう。
夜になりスワンがアパートにやって来て部屋に入ります。
ここで鍵の行方をごまかすフェイクがあります、このフェイクは何回見てもお上手ですなと思ってしまいます。寝ているグレース・ケリーがワンショット入るのはどう見ても自然な流れなのです。
カーテンの影に隠れるスワンのとこで怪しさを強調する斜めのアングルのショットがあります。
トニーとマークが出てるパーティではよく喋る男がいます。
で、自分の腕時計が故障してていつのまにか11:00を過ぎてるのでビックリのトニーです。
スワンの方は時間が過ぎてるので帰りかけますが、ここはいわゆる注意をそらすレッドへリングも描写だったようです。カギのことなんてどこかに行ってしまいます。
11:00の予定より遅れて11:00過ぎたとこで電話するトニー。
ダイヤルMを廻す木製の指のクローズアップショット。元は3D映画のこの作品、当時の3D撮影技術では超クローズアップショットが撮れないのでミニチュアではなく巨大模型を使う変則な手法を使ったとのことです。電話のつながるリレースイッチのショットといいシーンが続きます。
タイミングの一例。
電話を取るマーゴの背後には殺し屋スワンのショット。ここの襲うタイミングがいい。早過ぎてもダメで、遅過ぎると演じるグレース・ケリーが間抜けに見えてしまいます。そんなわけで絶妙のタイミングで行動開始となります。
レイ・ミランドのオーバーアクトの部分が少しあります。
電話を聞いてるときの痛ましい演技のとこ。ホントはここは無表情のほうがよかったのでは?ここぐらいか?
スワンがマーゴを殺そうと首を締めますが逆に背中をハサミで刺されてしまい、その上ハサミが刺さった背中側から床に倒れます。
ここで床に倒れたスワンの背中にハサミが食い込むとこをクローズアップショットでしっかりと見せています。これは痛そうなショットで今見ても少しビックリします。1954年当時としたら結構ショッキングでスプラッタだったでしょう。血は出ていないのは当時の倫理コードでそうなっているでしょう。
ハサミが背中に食い込むのは先端恐怖症の人には怖そうです。ここでも編集の上手なこと。当時のヒッチコック監督は興行だけはいい品性下劣な監督とされていたと思えます。
洗面所でのマーゴのショットはほんのわずかです。もっと長めだと思っていました。
『キャット・ピープル』(1982年)のナスターシャ・キンスキーと混同しているようです。
トニーは帰宅します。警察に電話します。
電話をしながらマーゴを見ているトニーは色々と考えています。これはいいシーンです。そんなわけでマーゴを休ませてトニーは現場をいじくり小細工に励みます。
通報の電話をして警察が来るまで2分とのことです。
その間にトニーは小細工を完了しないといけません。このわずかな間に・・、
スワンが持ってたカギをマーゴのハンドバッグに入れる。
首を絞めた証拠品のスカーフをライターオイルをかけて暖炉で焼却する。
ストッキングの片方をを窓の外に捨て、別の片方をデスクマットの下に隠す。
例の手紙をスワンの内ポケットに押し込みます。
で、小細工の仕上げで警察が来てお茶を出すついでにお茶のトレイでデスクマットをズリズリ押して隠したストッキングを見えるようにしています。
警察がストッキングを発見のところでインターミッションとなってます。
翌日です。
ライターオイルが無いなんてトニーは言ってるけど、あんたが証拠品を燃やすのに使ったんだろうと突っ込みたくなります。
ジョン・ウイリアムス扮するハバード警部がやって来ます。
自分の筋書き通りに証言するトニー。筋書き通りに行かないとこもあります。冷静にしているようですがハバード警部の脱いで置いたコートに座ったのはトニーでした。ここまでは頭が回らなかったようです。
でまかせを言いまくってもその反証の裏付けを取らなくてはホントになってしまうようです。怖いことです。
台所の窓には格子が入っています。この描写を台所にカメラは入らずに入り口から窓の格子の影が見えるようにして描写しています。凝っています。
隅から隅までちゃんと作り込んであります。
段々と地味になっていくグレース・ケリーのコスチューム。
これはちゃんとそのように演出でデザインされているとのことです。
グレーのワンピース。上は前の合わせ目が中心からずれています。スカート部分にはヒダが入っています。プリーツスカートと称するようです。
何で医者に電話しなかったと言われているけど。「私は首を絞められたのよ。殺されかけてて自分のことで精いっぱいで、そんなことを考えもしなかった」と言えばよかったのに。
このシーンの終りにカーペットをしわを直すトニーとなります。何となく印象に残ります。
法廷にて。
マーゴへの死刑宣告のシーンとなります。
ここは簡略化して描写されています。シーンがあっちこっちに飛ぶ印象を避けるために意図的にやったそうです。
この死刑を宣告されるシーンの最高の引用がブライアン・デ・パルマ監督の『ファントム・オブ・パラダイス』(1974年)にあります。陥れられたウィリアム・フィンレイが弁護の余地もなくあっという間に終身刑を宣告されてしまうとこです。これがギャグになってて最高です。
アパートにタクシーでやって来るマーク。
いきなりシーンは飛んでマーゴの死刑前日となっています。ここからラストまで突っ走ります。ホントに話しの進行が早い。
マークはトニーにマーゴの死刑回避のために作り話をしろと言います。この内容がトニーがやったことそのままだったりします。アイロニーが効いてます。
当然トニーはそんなことは上手く行かないとか言ってやる気がありません。
続いてハバード警部がやって来ます。おカネの話しをします。
隠れているマークは話しに出てきたトランクを見つけて帰りかけたハバード警部を引き止めます。トニーはでまかせを言いまくります。彼女はもう何も言わんよの前提でトランクの大金はマーゴのだとかまします。
マーゴの死刑前日ということでマークもトニーも必死なのがよくわかります。必死になる理由は違うのですけど。ハバード警部は少し必死です。
ハバード警部はカギの小細工をしてトニーを警察に行かせます。自分もいったんアパートを出てすぐに戻りトニーのカギを使い部屋に入ります。
暗い部屋の中でペンライトとスポットライトの組み合わせで電話を照らしているのが面白い手法です。電話をかけて作戦開始となります。
マークが戻って来て無理やり部屋に入ります。
警察に連れられてマーゴがやって来ます。カギが合わなくて部屋に入れません。
タイミングの一例。
ハバード警部の状況説明が終わったとこでトニーが帰宅したと合図が聞こえてきます。
カギの行方は?トニーはどうするかとクライマックスとなります。
それでトニーがカギを使いドアを開け中に人がいることによって全部ばれたとわかり思わず逃げようとまたドアを開けると外には別の刑事がいて逃げられないと悟るシーン。一瞬にして全てが視覚的に表されてしまいます。ヒッチコック監督は決めは視覚的にやります。上手いです。
グレース・ケリーの声は甘い声。見るたびにグレース・ケリーはいい声をしていると思います。背中がきれいです。
レイ・ミランドのキャラを決定付けた作品でもあります。ニコニコしながら平然と殺人を教唆するキャラです。ミランドの俳優生活を後半はこんなのが多かったと思う。
そんなわけで何回見ても面白いよい作品でした。洗練された映画手法がよくて謎解きなんかどうでもよくなっています。
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