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2006.04.25

『ダイヤルM』(1998年)

この作品はアンドリュー・デイビス監督、マイケル・ダグラス、グウィネス・パルトロウ、ビゴ・モーテンセン主演のリメイク物サスペンスです。
私の大好きなアルフレッド・ヒッチコック監督作品『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)のリメイクということで興味深く見ました。正直言ってホトンド勝ち目のないリメイクでしょう。
なおこの文はネタバレ全開となっています。

1998年 コペルソンエンターテインメント/ワーナー アメリカ作品
ランニング・タイム◆108分
原題◆A Perfect Murder
プロット◆気の毒なマイケル・ダグラスが運命に翻弄される話のようです。少なくとも私にはそう見えました。
音楽◆ジェームズ・ニュートン・ハワード
スカイパーフェクTV315スター・チャンネルにて。画質はよいです。正直言って画質がよくなり音声がステレオになっていることだけがオリジナルの1954年版より優れているとこです。

キャスト
マイケル・ダグラス→火の車のスティーブン・テイラー
グウィネス・パルトロウ→ヒロインのエミリー・テイラー
ビゴ・モーテンセン→画家兼スケコマシのデイビッド・ショウ
デビッド・スーシェ→モー・カルマン刑事

アンドリュー・デイビス監督の演出はまあまあだと思います。
この監督はよくいわれる職人監督ですが私の印象では職人監督とは製作側にだけは気に入られてるから仕事が途切れないボンクラ監督のこととなっていたりします。ですからほめ言葉ではありません。誰が本物の職人監督なのかは年月を経ないとわからないというのが正直なところです。

オリジナルから多少設定は変えてありました。
で、ビゴ・モーテンセンが死なずに替え玉となっていたというあたりから全く別の話しとなっていきました。話しは早くてこれで面白ければいいのですが。

カメラはやたらと動きますが何で動いているのかよくわからない。
カメラが動けばヒッチコック風にはなりません。ここんとこ再見した印象ではどちらかといえばヒッチコック監督はクローズアップショットの使い方が上手いんです。

やたらと動き過ぎな風景。
元が舞台劇なのですからおとなしくアパートの1室だけに限定して話しを進行させればいいのに。というのはこの1998年版は本『映画術』で舞台の映画化でやらない方がいいとしてることを片っ端からやっているからです。
あちこちに移動しているとシーンが変わるごとに別の映画が始まるとなっていましたがその通りに作ってありました。
で、その舞台劇をふくらませようとあちこちにシーンが移動しています。そのためなのかやたらと歩く地下鉄に乗るクルマに乗る等移動シーンが多かった。これらは無駄です。

殺しの依頼をするシーンはだいぶ落ちます。
料金は50万ドルとなっていました。ここが一番の見せ場なのにこのシーンをわ割して割とアッサリと処理。でもマイケル・ダグラスの思い入れたっぷりの演技でした。不満が残る。1954年版のニコニコしながら淡々と常軌を逸しつつ殺人の依頼をするレイ・ミランドが出色の出来だったとよくわかります。最高でした。

ここが見せ場の殺しのシーンでは。
ヒロインのグウィネス・パルトロウが殺し屋に襲われるシーンも画面の外からいきなり殺し屋登場でサスペンスがなくてサプライズでした。差し向けて来た殺し屋を逆に殺してしまうシーンでは血が出ればいいものではないでしょう。凶器はハサミではなく台所なので包丁でもなくローストチキンの温度を計る温度計でした。その前に伏線張ってローストチキンの描写がたっぷりありました。ここまでするならブスリと刺したとこで体温の37度を指しているショットを見せるとかすればよかったのに。
ここは撮影技術の進歩と暴力描写規制がゆるくなったことで1954年版に対する唯一勝ち目のあるシーンだったのに残念なことです。血は出ないけど倒れた時に背中に刺さったハサミが床に当たって更に背中を抉るとこをクローズアップショットで見せてる1954年版に負けています。規制の厳しい時の作品にスプラッタ度でも負けててどうする。

サスペンスのある1954年版はグレース・ケリーの後に控える殺し屋を見せつつそれに気づかないグレース・ケリーが間抜けに見えない程度のタイミングで襲わさせるとこ上手いものでした。殺し屋の背中に刺さったハサミが血は出ないけど見てて痛そうでした。1998年版はサスペンスとサプライズの違いがわかっていないのですね。オリジナルの1954年版を見ていないのかいと文句が出ます。

リダイヤル機能で連絡を付ける描写はこれが1998年版で1番のシーンですか。ここが唯一のいいところでした。
殺しやゆすりの打ち合わせを人込みの中で何回もN.Y.観光映画のようにあちこちでやっていました。目撃されて足がつくことを考えないのかい。

逢い引きするためにアトリエに来るグウィネス・パルトロウ。上でカメラを向けるビゴ・モーテンセンの画家。ここでカメラを向けられたら視線を感じて振り向いてニコリと笑うグウィネス・パルトロウ。このぐらいのシーンは入れてほしかったものです。

マイケル・ダグラスは立て続けに事件が起きてはまずいとのことでしたが、まずいと思っていた本人が死んでしまうので結局まずくはなかったようです。
全てがバレたとこでスパッと終わる1954年版のままではTVドラマの刑事コロンボシリーズと同じで物足りないと思ったのかラストは普通のアクションになっていました。これもかなり不満が残ります。

美人というより個性的なグウィネス・パルトロウ。
1954年版のヒロイン、グレース・ケリーに似ているのは金髪と顎の張り具合ぐらいです。ここでヒロインはシャーリーズ・セロンあたりにして欲しかった。とにかく文句無く美しくないとお話になりません。それでグウィネス・パルトロウはルックスではグレース・ケリーに勝てないと判断したのか下着姿や入浴シーンとかお色気シーンの連発で奮闘していました。最初のパーティのヘアスタイルは『めまい』(1958年)のキム・ノバックのようでした。

国連の通訳の設定はスラム街のアパートに行くとこ等で役に立っていました。
あまり意味がないような。刑事の母国語がわかるのもあった。これだけのためにわざわざ国連のシーンを撮ったのですか?それではいっそのこと『『北北西に進路を取れ』(1959年)みたいにグウィネス・パルトロウが殺人犯に間違われるとかすればよかったのに。

グウィネス・パルトロウは誰かに似てるなと思ってましたが、そうだ派手なシシー・スペイセクなのではと思いついた。

気の毒なマイケル・ダグラスはドツボにはまる。
マイケル・ダグラスはスケコマシの殺し屋役かと思ったらレイ・ミランドが演じていた旦那役とは・・・合わないのでは。→合っていません。
カットバックが多用されていますがどのカットバックもマイケル・ダグラスが気の毒に見えるようになっていました。どうしてそのように意図しているのかは不明ですが。
どういうわけか誰も期待していないのに何故かマイケル・ダグラスのシャワーシーンがあったりします。『サイコ』(1960年)みたいにグウィネス・パルトロウが包丁持って乱入してくるのかと思ったらそれはなかった。この方が面白かったような感じ。
マイケル・ダグラスと父カーク・ダグラスの死に方を越えることはもう無理なようです。年齢的にも・・この作品上手く作ればもしかして偶然に父カーク・ダグラス主演の『探偵物語』(1951年)並みの死に方になったのかもと思わせます。もったいない。

ビゴ・モーテンセン扮する画家のデイビッド・ショウのキャラは?
画家という設定はどう生かされているかと思ったら全然生かされていませんで単なる前科持ちのスケコマシでした。とはいえビゴ・モーテンセンの演技だと画家はスケコマシの道具のみとは見えないような。列車内でパルトロウの写真だか絵を飾っていたのも何だかわからん。

デビッド・スーシェ刑事は1954年版の刑事と同じか?
スーシェが演じたこともある探偵ポアロみたいに有能でユーモアがあると思ったら、とんでもなくて『エグゼクティブ・デシジョン』(1996年)で演じていたテロリストみたいでした。ユーモアゼロでしかも単なるサポートキャラの期待外れで事件解決にもあまり関与していないのでこのキャラはいらないのでは?
この人は何語を喋っていたのでしょう。アラブ系と思えますが何か気になります。他に散々余計な描写がある割にはこういうとこがお留守になってて、しゃくにさわります。

単純なリメイクではなくて全く別ジャンルとして出来がいいかというとそうでもないのが痛いとこです。ハリウッドメジャーの謎解きサスペンスはてんでダメ。何でもありの意外な落ちばかりでうんざりします。
カネと手間だけでは出来はよくならないとよくわかります。これが映画のよいところの1つです。
で、見終わって面白いしヒッチコック監督のことを理解している『メル・ブルックス 新・サイコ』(1977年)を見たほうがよっぽどいいと思いました。

そんなわけで舞台の映画化でやってはいけない例のオンパレードの悪い実験作で結構楽しめました。相当オリジナルの脚本をいじったのか支離滅裂な作品でした。
1998年版は何だか主演してる3人とも犯人に見えます。



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コメント

はじめまして、こんにちは。

昨夜、以前録ってあったコレのを観たのですが、何だか不完全燃焼で、他の方がどう思ったのか知りたく、レビューを探してました。ロイ・フェイスさんのレビューおもろいです・・・。

>1998年版は何だか主演してる3人とも犯人に見えます。
あはは、ホントですね。

>カネと手間だけでは出来はよくならないとよくわかります。これが映画のよいところの1つです。
なるほど、納得。

また御邪魔させてくださーい^^ありがとうございました。

のんたんさん、コメントありがとうございます。

私の映画の感想を面白く読んでくれて重ねてありがとうございます。
映画の感想を書いてる甲斐があります。

それではまた読みに来てくださいね・・・

何様? 馬鹿丸出しの解説ありがとう。

キャストを調べようと検索したら引っ掛かったので拝見してみることにしました。
が、他と比べて似ていれば批判、違っていても批判。リメイク元作品への思い入れのあまり、端からこの作品自体を正当に評価する目で鑑賞されていなかったようで。
レビューだと思い込んで読みましたが、どうやら感想文を読んでしまったようです。
極めつけは、画家が写真を飾った意味がわからないとか…これだけ評論家然として文句をつけていながら、あんなにわかりやすく意味を持たせた、部屋でのシーンや写真を飾るシーン等でわからなかったなんて、唖然としてしまい、思わず書き込んでしまいました。
映画術に詳しくない私でもわかる、わかりやすい演出すら見えなくなるほど、冷静にご覧になれていなかったようで残念です。

一テレ東視聴者さん、コメントありがとうございます。

無料の個人的見解に多くを求めてもらってもこまります。
出来ればあなたの正解を私に伝えてもらえるとありがたいと思います。

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