『パラダイン夫人の恋』(1947年)
この作品はアルフレッド・ヒッチコック監督が独立系製作者デビッド・O・セルズニックとの7年契約を全うするために撮った法廷サスペンスです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1947年 セルズニック・インターナショナル・ピクチャーズ アメリカ作品
原題◆The Paradine Case
DVDにて。画質は非常によい。
プロット 依頼人の夫人に入れ込む弁護士の話しのようです。
音楽 フランツ・ワックスマン
キャスト
クレゴリー・ペック→アンソニー・キーン弁護士
アリダ・ヴァリ→問題のパラダイン夫人
アン・トッド→キーン弁護士夫人のゲイ
チャールズ・ロートン→ホーフィールド判事
エセル・バリモア→判事夫人
チャールズ・コバーン→弁護士サイモン卿
ルイ・ジュールダン→召使で証人のラトゥール
レオ・G・キャロル→検事
ジョーン・ティッツェル→サイモン卿の娘ジュディ
アルフレッド・ヒッチコック監督の演出はよいと思います。
脚本は未完で撮影に入ったとのことです。このパターンはヒッチコック監督のセオリーには反することです。
そんなわけであまりやる気がない状態のようです。、淡々というか単調のような感じがしないでもない。とり合えずやるだけはやりましたというような感じです。もしかしたら職人監督になり切っていたのかもしれません。
チャールズ・ロートン扮するホーフィールド判事のキャラをわざわざスケベにしたり嫌味にする理由がよくわかりません。キャラに深みを与えるというやつなのかも。
タイトルではヴァリとだけ表示されているアリダ・ヴァリ。特別な雰囲気を出そうとしているようです。
プロローグ。
ロンドン 近い過去と字幕で出ています。
パラダイン邸にて。
ピアノを弾いてるアリダ・ヴァリ扮する優雅なパラダイン夫人。
アンブローズ警部とレゲット巡査長の訪問があります。これはパラダイン夫人を逮捕連行するためでした。
パラダイン夫人の「夕食はいらない」のセリフ。これでパラダイン夫人二度とパラダイン邸に戻ってこないことになります。
警察にて。
チャールズ・コバーン扮する顧問弁護士サイモン卿と打ち合わせをするパラダイン夫人。腕利きのキーン弁護士を紹介するサイモン卿。
その後は収監するための手続きとなります。
本『映画術』で言われているように髪の中まで検査されています。ディテール描写に凝っています。検閲がなかったらあそこの中まで検査するシーンを撮っていたでしょう。現在だって無理なシーンです。
パラダイン夫人は収監されます。ドアの閉まる音が印象的。
キーン弁護士宅にて。
クレゴリー・ペック扮するアンソニー・キーン弁護士が帰宅します。
出迎えるアン・トッド扮する夫人のゲイ。
キャラ紹介といったとこです。
刑務所にて。
パラダイン夫人に面会に行くキーン弁護士。早速入れ込みます。
ホーフィールド判事邸にて。
チャールズ・ロートン扮するホーフィールド判事らと食事です。
パラダイン夫人に関して打ち合わせ?のキーン弁護士、サイモン卿、ホーフィールド判事の3人。
エセル・バリモア扮するホーフィールド判事夫人とキーン弁護士夫人のゲイとの会話もあります。
キーン弁護士夫人のゲイに注目するホーフィールド判事。堂々と口説きにかかります。このシーンは本筋とはあまり関係がなかったりします。未完の脚本らしい展開です。
ところでヒッチコック監督はチャールズ・ロートンが大嫌いで、本『映画術』ではロートンのことをこき下ろしていました。多分ロートンの外見が自分に似ているから嫌いなのでしょう。近親憎悪なのかい。
刑務所にて。
パラダイン夫人と面会するキーン弁護士。
目の不自由な老人が夫だった。イタリア人らしいパラダイン夫人は以前は売春をしていたらしいが恋が終わったとも称しています。要するに色々とあってカネと権力のある男をゲットして成り上がったらしい。
キーン弁護士宅にて。
サイモン卿と打ち合わせのキーン弁護士。
裁判の重要な証人となる召使の話が出ます。
刑務所にて。
パラダイン夫人と面会するキーン弁護士。
召使ラトゥールの話しが出ます。これは調べに行かなければとなります。
キーン弁護士宅にて。
夫人のゲイと会話。ところでゲイというのがキーン弁護士夫人の名前なのかとようやく分かったような。最初の方ではわからずにどこにホモが出ていたと勘違いしていました。
パラダイン夫人の別荘に調査に行くというキーン弁護士。
当地の駅です。
到着するキーン弁護士。ヒッチコック監督も到着していました。
この頃のヒッチコック監督は本編に登場する時は必ず主役と絡んで映るようにしているみたいなのが面白い。後で編集でカットされるのが心配なのでしょう。この作品では編集権がないのです。編集権は誰が持っている?→当然それは製作者デビッド・O・セルズニックです。
宿屋にて。
別荘行く手配をしてます。馬車で行くことに。
御者の男から召使の話が出ます。
別荘に着きます。
ルイ・ジュールダン扮する召使ラトゥールが出迎えます。
女性の管理人が別荘を案内しています。ここは『レベッカ』(40年)風になっています。
セットは豪華です。モノクロですがカネがかかっているのがわかります。
主観ショットの切り返し。ヒッチコック監督の得意の手法で主観ショットと見ている本人を切り返す手法です。
スクリーンプロセスのスクリーンで別荘を去るキーン弁護士。合成とは違います違和感があり過ぎ。もし当時でもデジタル合成があったらヒッチコック監督は何でも出来ると狂喜したでしょう。
隠れて見ている召使ラトゥール。意味あり気なキャラとなっています。
宿屋にて。
夜遅く召使ラトゥールがキーン弁護士に会いにやって来ます。
大事な話しがあるとのことです。思わせぶりに話しは進む。
召使ラトゥールがパラダイン夫人の愛人と知っているキーン弁護士。
パラダイン夫人はビッチだという召使ラトゥール。見ている方はそれだけかいと突っ込みたくなります。
戻るキーン弁護士。
刑務所でパラダイン夫人と面会します。
パラダイン夫人に入れ込み過ぎるキーン弁護士です。
キーン弁護士宅にて。
夫人と話しがはずまないキーン弁護士。
で、パラダイン夫人のことで口論となっています。
いよいよ法廷です。ようやくと言ったほうがいいのかも。
英国の法廷は裁判官、検事、弁護士とそれぞれカツラを被っているのが面白い。何も知らないで見ているとこれはハロウィンなのか?コスプレなのか?冗談なのか?と思えます。
検事がレオ・G・キャロル。
キーン弁護士の同僚がジョン・ウィリアムス。
と、ヒッチコック監督作品ではおなじみの俳優が演じています。
証人の召使ラトゥールが出廷してきます。
ここの本『映画術』でも説明されてるパラダイン夫人を手前に召使ラトゥールをスクリーンプロセスのスクリーンで撮ったシーンが面白い。
見どころのシーンです。この作品唯一の見どころといってもいいかも。
キーン弁護士宅にて。
短いシーンが入ります。夫人のゲイは寝込んでいる?
ゲイを演じるアン・トッドはあまりいいとこはありません。「あたしは主役が出来るのよ」とさぞ不満だったでしょう。実際に主演作で『マデリーン愛の旅路』(46年)や『第七のヴェール』(45年)とか結構いいのがありますし。
法廷にて。
召使ラトゥールの証言。
マーガレット・ウェルズの名を出すキーン弁護士。
そんなこんなで休廷となります。正直言って何だかよくわかりません。
控室にて。
パラダイン夫人と打ち合わせのキーン弁護士。
不満なパラダイン夫人、私を助けてくれても召使ラトゥールを犠牲にしてはダメと無理を言います。
法廷にて。
続いて召使ラトゥールの証言。パラダイン夫人のこと。
退場する召使ラトゥールとパラダイン夫人のカットバック。
問題のワイングラスは私が洗ったと証言するパラダイン夫人。このへんになると見てて、もうどうでもいいような感じです。
キーン弁護士宅にて。
帰宅したキーン弁護士とサイモン卿の娘ジュディの会話。
このキャラのジュディは余計なような感じもします。
法廷にて。
パラダイン夫人の証言。
検事からの質問です。そんなとこに召使ラトゥールが自殺したと知らせが届きます。
召使のアンドレ・ラトゥールを愛していたとパラダイン夫人。ついでにキーン弁護士をこき下ろすパラダイン夫人です。
これで弁護のしようがなくなってしまう状況となります。
俯瞰ロングのシーンとなり勝目のなくなった法廷を退場するキーン弁護士。これはよいシーンです。
ホーフィールド判事邸にて。
死刑となるパラダイン夫人に同情する判事夫人、意に介さずに仕事と割り切っているホーフィールド判事。
サイモン卿宅にて。
失望の極みのキーン弁護士。夫人のゲイが迎えに来ます。
夫人はキーン弁護士に仕事を続けてと熱弁となり、で、2人でやり直そうとエンドとなります。セリフに頼ってこのオチでは脚本の典型的な悪い例になっているようです。
英国は今も昔もゴシップ記事がドギツイから被告に入れ込んだキーン弁護士は大変となるようです。英国のゴシップ記事は日本のように自主規制で完全に統制されていないようですからホントに大変そうです。
そんなわけで製作条件が悪かったしヒッチコック監督にしてはまあまあな作品でした。
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