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2005.07.09

『マン・ハント』(1941年)

この作品はフリッツ・ラング監督の少し捻ってある反ナチ映画です。
1940年代の映画が好きな私としてはラング監督の1940年代作品なら見なくてはとなります。
なおこの文はネタバレ全開となっています。

1941年 20世紀フォックス アメリカ作品
原題◆Man Hunt
プロット ヒットラー暗殺騒動に巻き込まれる話しのようです。
スカイパーフェクTV315スター・チャンネルにて。画質はよいです。
音楽 アルフレッド・ニューマン

キャスト
ウォルター・ピジョン→アラン・ソーンダイク大尉
ジョーン・ベネット→ヒロインのジェリー・ストークス
ジョージ・サンダース→ドイツの大佐
ジョン・キャラダイン→大佐の部下1号
ロディ・マクドウォール→船のボーイ
ルードイグ・ストセル→ドイツの医者の博士
フレデリック・ウォーロック→英国のリズボロー卿、大尉の兄
ヘザー・サッチャー→リズボロー卿夫人のアリス
ロジャー・イムホフ→ジェンセン船長
ホームズ・ハーバート→大尉の顧問弁護士ソール

フリッツ・ラング監督の演出はよいと思います。
プロローグでワイプとフェイドを使いショットをつなげて空撮から地上へとカメラが下りてきてライフルの狙いをつけている男のクローズアップショットまでつないでいます。現在の撮影技術なら1ショットで出来ますが当時の技術では無理なので頭を使って何とかしています。上手いです。
溶暗が使われています。緊張感のある作品で1シーンが終わり画面が暗くなるとホッとしたりします。
短い前説があります。1939年のドイツから話しは始まります。
脚本はダドリー・ニコルズです。実際の出来事でとドイツのポーランド侵攻も入っていました。1941年にしては英国の空爆まで入っていたような。

英国人のアラン・ソーンダイク大尉は森の中からボルトアクションのライフルにスコープを取り付け別荘のヒットラーに狙いをつけます。これは狙撃物なのかと思ったら実包は装填されていなく空撃ちで単なるジョーク?と思ったら今度はホントに実包は装填して狙いをつけます。どうなってんの?と最初から見てる人を惑わせます。

ソーンダイク大尉は暗殺未遂?のとこであっさりとゲシュタポに捕まって厳しい取り調べを受けます。パスポートから英国人とわかり、ここはこの英国人大尉を政治的な材料にしようとドイツに都合のよい供述書にサインを求められます。当然断るソーンダイク大尉と話しは進む。

取り調べによると狙撃の距離は502メートルとのこと。日本語字幕ではフィートをメートルに変換してるので半端な数字になっているのでしょう。この位の距離なら狙撃らしい。別荘から450メートル以内には近づけないようになっている設定。
ソーンダイク大尉の主張では獲物に気がつかれないように近づくことだけでも狩猟になるとのことです。
取り調べでは英国人とドイツ人のキャラクターの違いについて議論してたりします。
絶対に供述書にサインをしないのでパスポートを返して森に放し殺そうと企てます。それにしても医者が負傷している人を崖から突き落とすなよとなります。この後に狩猟している時に英国人大尉を死体を発見する手はずでした。
それが崖から落とされても何故か無事なソーンダイク大尉は河を通って猟犬をまいて港まで逃亡してしまいます。
森から港とは随分と雰囲気が違うことになります。あまり場所を移動すると散漫になる場合が多いけど。この作品はそんなことはなかった。
港ではボートにから貨物船(だと思う)に乗り込みロディ・マクドウォール扮する子供のボーイにかくまってもらいます。
その船にアラン・ソーンダイクを名乗る謎の英国人ジョン・キャラダインが客として乗り込んできます。またサスペンスとなります。

あっという間に船は英国のロンドンに着いてしまいます。船を降りたら霧の街ロンドンで早速ドイツの追手と追いつ追われつとなります。
45分頃になってようやくヒロインのジョーン・ベネットが巻き込まれ方式で登場してきます。アパートに入れてかくまってくれという設定。
何とか兄のリズボロー卿の家までたどり着く大尉とヒロイン。ここで下層階級のヒロインと貴族のリズボロー卿夫人が話しが合わないギャグみたいなのがあります。
この家までソーンダイク大尉の知り合いと称するキーブ・スミス大佐から電話がかかってきます。またサスペンスとなります。

弁護士事務所前で見張る大佐の部下ジョン・キャラダインは噴水前のハトにエサをやりながら時間を潰していて目的の大尉がやって来たら連絡の伝書バトを飛ばしていたりします。これはハトのギャグなの?
地下鉄ではジョン・キャラダインの持つステッキは仕込み杖になってるがわかります。日本刀でいえば脇差ほどの長さの剣が仕込んであります。長身痩躯のジョン・キャラダインに仕込み杖のステッキはよく似合います。

橋の上で別れる大尉とヒロインの2人。ここでヒロインがトラックに飛び込んだら別の映画になってしまいます。ヘアスタイルやメイクがビビアン・リー主演の『哀愁』(40年)に似ているのでそう思った。

そもそもこの英国人のアラン・ソーンダイク大尉がホントにヒットラー暗殺命令を受けていたのか?獲物に近づくだけの狩猟ゲームだったのか?は最後までぼかしたままでした。
クライマックスのドイツの大佐との会話でもこのことについて議論していました。
ここに至っても供述書のサインを求めるしつこいドイツの大佐となっています。

ラストでは今度こそヒットラー狙撃のためにと飛行機から無断で降下するアラン・ソーンダイク大尉。恋人を殺されたために自分で決意したと思えます。それでもホントにそうなの?と何か怪しげな感じもします。余韻が残り過ぎています。

英国人のアラン・ソーンダイク大尉を演じるウォルター・ピジョンといったら『キュリー夫人』(43年)『禁断の惑星』(56年)が印象に残っています。
調べたら『キュリー夫人』はマービン・ルロイ監督なのですか、てっきりウィリアム・ワイラー監督だと思い込んでいました。ワイラー監督の作品は『ミニヴァー夫人』(41年)でした。2本ともキャストがグリア・ガーソンとウォルター・ピジョンなので混同していました。

ジョージ・サンダース扮するドイツの大佐は英国ではソーンダイク大尉の知り合いのキーブ・スミス大佐と名乗っていました。
ドイツ一味はボスはジョージ・サンダースで部下はジョン・キャラダインという豪華なキャストのコンビです。

子役時代のロディ・マクドウォールが見られます。こうみると大人になっても子役時代の面影が残っています。神経症的な感じのことです。『ヘルハウス』(73年)や『ダーティ・メリー クレイジー・ラリー』(74年)とかを見ています。

ジョーン・ベネットのたばこを吸うヒロインはいかにも1940年代な感じです。アパートにはガス灯が点いてます。まだ電気はないのか。
このヒロインのキャラクターは子供なのか大人なのかよくわからないエキセントリックなものになっています。いいじゃないですか。

フリッツ・ラング監督の好みの女優さんはどうなのでしょう。シルビア・シドニーとかジョーン・ベネットが目立つのですが。

局留め郵便を受け取りにいったとこでの郵便局員の女性がどこかでみたような中年婦人。イリー・マルヨンという人。IMDbで調べると『海外特派員』(40年)でケンジントンのホテルのフロントの人のようです。

ジョン・キャラダインの最後から地下鉄の動力源の電気は線路脇にあるようです。『サブウェイパニック』(74年)のアイデアはここでもうやっていたのかと感心します。ラング監督は他にも暗やみに弾痕の穴が明るく点に描写する手法も『恐怖省』(44年)でやってたりします。


そんなわけでさすがフリッツ・ラング監督のよい作品でした。

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