『青べか物語』(1962年)
この作品は山本周五郎原作、川島雄三監督の江戸川ならぬ根戸川河口の町浦粕を舞台にした群像ドラマ?です。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1962年 東京映画/東宝 日本作品
プロット よそ者の先生が浦粕町で短い期間すごす話しのようです。
スカイパーフェクTV310衛星劇場にて。画質はまあよいです。
音楽 池野成
キャスト
森繁久弥→浦粕に来たよそ者の先生
東野英治郎→先生にからむ芳爺さん(60才)
加藤武→芳爺さんとつるむ消防組長わに久(50才)
中村是好→上の2人とつるむ理髪屋の浦粕軒(45才)
桂小金治→上の2人とつるむ天ぷら屋の親爺勘六(43才)
市原悦子→勘六の女房あさ子(32才)
山茶花究→先生の下宿先の主人増さん(43才)
乙羽信子→増さんの女房きみの(34才)
南弘子→母に捨てられた乞食の繁あね(13才)
丹阿弥谷津子→繁あねの母で戻ってきたお定(36才)
左幸子→ヒロインのごつたく屋の女おせいちゃん(20才)
紅美恵子→ごつたく屋の女おきんちゃん(25才)
富永美沙子→ごつたく屋の女おかっちゃん(25才)
都家かつ江→ごったく屋のおかみ(38才)
フランキー堺→気弱な五郎ちゃん(25才)
千石規子→強気な五郎ちゃんのおっかさん(52才)
中村メイコ→砂をまく五郎ちゃんの花嫁第1号
池内淳子→砂はまかない五郎ちゃんの花嫁第2号
小池朝雄→貝盗人
名古屋章→看視人
左卜全→老船長
桜井浩子→お秋(老船長の昔の恋人)
立原博→セールスマン
園井啓介→転勤したい若い警官
中原成男→医者
田辺元→警部補
川島雄三監督の演出はよいと思います。
浦安が舞台の筈ですが浦安ならぬ浦粕となっています。これは原作通りです。
時代設定は原作では大正15年から昭和4年とのことですが、原作とは違い映画の製作当時1960年頃にに変更になっているようです。原作のエピローグで30年後というエピソードがあってこんなに変わってしまったとなっていますが、それがちょうど映画の時代設定になっているので何か妙な感じがします。
それでは何のために映画を作ったのか?となりますが映画自体は俳優陣のやり過ぎ演技で結構面白かったりします。
原作は大正14年から昭和4年のこととなっていて西暦にすると1926-1929となります。で、映画は1962年で映画からの30年後となる1990年代になると無味乾燥な産業道路の357号線がディズニーランドの側を通る時代となっています。これは昔は比べてよくなったということなのか疑問が残るとこです。よくなったのは環境がくみ取り便所から水洗便所になっただけと思えたりします。
すし屋にての森繁のナレーションは聞き取りづらくてどうなることやらと思ったが以降は何とか聞けるようになっていました。
ロケの効果は出ているのかい。何だかセットも多いし。
浦粕橋で始まりこの橋で終わります。ところでこの橋のホントの名前はなんというのでしょう。
先生のキャラクターも原作とは違っているようです。なんで演じるのが森繁久弥なのかと疑問があります。それなら誰がいいのかとなるとわからないというのが正直なとこです。いっそのこと川島雄三監督の分身と思われるの三橋達也ではもいいのではとなります。→『州崎パラダイス 赤信号』(56年)を見たら川島雄三監督の分身は三橋達也と見えたのでそう思えました。
細かいエピソードがつながっている構成になっています。原作全部ではなくその中からセレクトされています。キャラクターの数を減らして役割を兼任させたりして話しをシンプルにしているようです。脚本は新藤兼人が担当で無難にまとめています。
カワウソとイタチの合の子と言われているセールスマンからカネを巻き上げる図。
フランキー堺の2人の花嫁をめぐる、のぼりがおっ立つ図。
貝盗人のエピソードは覚えていたので入っていないかなと思ってたらちゃんと入っていました。貝盗人が小池朝雄で看視人が名古屋章というコンビでした。追っかけのとこは手前からはるかかなたへとワイドスクリーンをいっぱいに使ってワンショットで奥行きを見せていました。俳優さんはめいっぱい走らされて大変だと思えますがこれはよかった。
市民運動の妨害の一例のエピソードは入っていませんでした。かき回し役を雇って集会がいつも途中で打ちきりとなります。この繰り返しとなります。
キャストは豪華でした。
女優さんなんて多過ぎて誰が誰だかよくわからないくらいでした。出てる俳優さん達があまり東宝っぽくないのが面白いものです。
東野英治郎と加藤武が下卑た笑い全開のやり過ぎ演技で楽しませてくれます。下卑た笑いの二重唱になっていました。
東野英治郎は何をしても東野英治郎です。それにしてもこの作品でのキャラはいつもの通りのやり過ぎもハマっていました。浦粕とはベか舟という小舟で水路を行き来するところなので森繁久弥の先生にボロボロのベか舟(通称青ベか)を売りつけたり売った後でもからんだりとやりたい放題痛快丸かじりで非常によろしい。
東野英治郎はどの作品に出ても変わらんのがいい。黒沢明監督の作品に出ても変わらんのがエライ。
森繁久弥の先生が女性のお誘いを断ったりしていますが嘘つけこの野郎といった感じで説得力に欠けるのではと思えます。
勘六(天ぷら屋の親爺43才)の桂小金治とあさ子(勘六の女房32才)の市原悦子の明るい夫婦げんかの図も面白い。
天ぷら屋を手入れ?するが逆にからまれる若い警官の園井啓介。このあとにも(繁あねの母36才)の丹阿弥谷津子にもからまれていました。
おせいちゃん(ごつたく屋の女20才)の左幸子は魅力的でした。少しあかぬけ過ぎのような感じがするのもご愛嬌です。
老船長の昔の恋人お秋ちゃんは誰かと思って調べたら桜井浩子とわかりびっくりしました。どこかで見たような顔と思っていたがそれもそうでTVシリーズ『ウルトラQ』(65年)、『ウルトラマン』(66年)でおなじみでした。62年の映画に桜井浩子が出ているとは思いませんでした。16歳位の時ではないの?それが子持ちになって32歳で死ぬ役とは思いませんよ。
『ウルトラQ』(65年)の役名、江戸川由利子の江戸川はこの作品からきているのでは?
私の好きな川島雄三監督と増村保造監督に共通するのは作品の出来が湿っぽくないことです。陰々滅々絶叫芝居ばかりの日本映画でこれに勝る長所はありません。
そんな感じで原作とは別物ですが湿っぽくないよい作品でした。
かなり以前のことですがSF作家平井和正のあとがきに私の師匠は山本周五郎とありました。
それなら山本周五郎でも読んでみるかとなりすでに出てる文庫本を少しずつ買うほどではないと思い古本屋で新潮文庫の山本周五郎50冊古本セットを買って全部読んだものです。で、読んだ全体的な印象としては山本周五郎の特徴は最高のエモーションにセンスのよいユーモアとなります。アクションの描写もいいしいうことない。そんなわけで平井和正はSF作家の第一世代にもぐりこめてよかったねとなります。SFというジャンルが出来てなかったら平井和正は山本周五郎の焼き直しで終わったと思えました。
それにしても山本周五郎の小説でまともに映画化されているはあるのか?と思えます。映画より原作の小説を読んだ方がエモーションが得られる場合がホトンドではないのか?。映画と小説は違うということはわかっているつもりですが実際そういうことがよくあるのですからこまったものです。
山本周五郎原作の映画で見てるのは原作とはだいぶ違っていますが『椿三十郎』(62年)くらいですかね。でも口封じのために屋敷内全員を斬り殺すとこがありましたが山本周五郎らしくなくもはや映画独自の世界となっていると思えました。
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私は長島でそだっただよ
お秋の嫁入り先のとなりに住んでただよ
そこの子孫と同級生だっただよ
お繁は浦安から逃げてよ
雷でコジキやってただよ
オラがガキの頃の話しだけんどね
まだ生きてただよ
もっともバアさんになっちまったけんどね
投稿: ハゼ | 2010.04.15 23:51