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2005.05.07

『汚名』(1946年)

この作品はアルフレッド・ヒッチコック監督、イングリッド・バーグマン、ケイリー・グラント主演のスパイ・サスペンスではなくスパイ・メロドラマのようです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。

1946年 RKOラジオ・ピクチャーズ アメリカ作品
原題◆Notorious
DVDにて。画質は非常によい。以前買ったLDより全然よい。これで2500円なら買った方がいいです。
プロット 白馬に乗った王子が助けに来てくれる話しでもあるようです。◆人の奥さんになっても待つ話しでもあります。
音楽 ロイ・ウェッブ

キャスト
イングリッド・バーグマン→ヒロインのアリシア
ケイリー・グラント→FBIのデブリン
クロード・レインズ→スパイのセバスチャン
レオポルディン・コンスタンティン→セバスチャンの母
ルイス・カルハーン→デブリンの上司プレスコット
アレクシス・ミノティス→結構出番の多い執事ジョセフ

ドイツ側の面々は、
ラインホルト・シュンツェル→アンダーソン博士
イヴァン・トリーソルト→リーダー格のマティス
エバーハード・クルンシュミット→メガネのフプカ
ペーター・フォン・ツェルネック→優男のロスナー
フレデリック・レデバー→武骨なナール

アルフレッド・ヒッチコック監督の演出はよいと思います。
脚本はベン・ヘクトです。

アメリカのフロリダ州マイアミから話しは始まりブラジルのリオに舞台は移ります。セットやスクリーンプロセスの合成の多用でスタッフキャストの誰もがリオには行っていないようですが舞台はリオということになっています。
話しは早く展開に無駄がありません。

プロローグのドアを半分開けて裁判を覗くとこでは画面の左右にドアのクローズアップが合成されていてドアと奥に見える裁判のシーンの両方にピントが合っています。この時期ですでに遠近合成をやっていたとはさすがに巨匠は絵作りに凝っています。

凝りまくりのシーンの数々。
スクリーンプロセスでの夜のドライブで髪の毛が邪魔だわの主観ショット。
アリシアが寝ている姿勢からの近づいて来るデブリンが逆さになって見える主観ショット。
忘れ去られたシャンペン。妙に印象に残ります。
競馬場のシーンでは双眼鏡のレンズに景色が映るとこが合成を使って入れているようです。巨匠は妙なとこに凝ります。
コーヒーに毒が入っているのに気がつくシーンはいいです。
こんな感じで技巧を尽くし凝りまくりで撮っています。

主演二人の会話シーンではていねいに切り返しをしています。『白い恐怖』(45年)ではやってなかったのに何故?と考えるとこの作品は製作者デビッド・O・セルズニックが監督主演をパックでRKOに売ったとなってまして、製作がRKOなので撮影についてはかえってうるさく言われなかったからかもしれません。
何で普通のドラマで普通の会話のシーンが面白いのでしょう。スターが出ているからか?それだけではないですね。
視線を走らせそこにつなぐ手法。これが基本になっているようです。
カメラを人物が移動しても付かず離れずといった感じです。これがよいのです。

カメラが動きながらバーグマンが視線を走らすアップショットとそのバーグマンが何を見ているかの主観ショットを切り返す手法が多用されていました。
ヒッチコック監督はこの手法が好きで、他の作品でも多用しています。これがヒッチコックタッチの基本だと思えます。
動くカメラはレールを敷いて移動する。ドリーを使う。クレーンを使う。これくらいです。まだズームレンズもステディカムもない撮影条件です。

この作品のマクガフィンはワインの瓶に入ったウラニウム鉱石です。あくまでも話しの進行のカギなるだけでこれにあまりこだわってはいけませんとのことです。

セバスチャン邸の外観は合成を使っているようです。こういうのは好きですね。この邸には怖そうなセバスチャンの母がいます。邸内のカギはこの母が管理しててアアリシアに頼まれたセバスチャンがカギを取りに行くシークエンスは面白い。しぶい顔がドアを開けると笑顔になっています。

パーティでカギを持っているアリシアの手に近づくカメラの動きが有名です、当時はズームがないのでクレーンを使っての撮影だと思われます。カギのクローズアップになると画面が荒れるのは何か特殊効果を使っているのかもしれません。
このショットもいいけど次のシーンでアリシアの手からデブリンの手にカギを渡す時に一瞬はさまる2人の手の間にあるカギの超クローズアップショットもいいと思います。

2回目のパーティーにてシャンペンを飲んで急いで立ち去るヒッチコック監督の登場シーン。そんなに急ぐなら出なきゃいいじゃんと思えますがそこが映画作家で妙なことに執念深くこだわるのです。
編集権がなかったとされている『レベッカ』(40年)では自分の出演シーンをあっさりとカットされてました。ホントに編集権はなかったようです。そうすると次作のまだ編集権が怪しいと思われる『海外特派員』(40年)では重要なシーンに主演のジョエル・マクリーとからめて編集で自分がカット出来ないようにしてしかも少し長めに出ていました。どこが観客が期待するからしかたなく出ているの?となります。かように映画作家は妙なことに執念深くこだわるのです。

デブリンが酒蔵を調べてワインの瓶を落とすショットからアリシアのリアクションにつなぐのがいいです。セバスチャンに見られたのをごまかすためにキスするシーンも今見ると洗練されています。
この後に酒蔵のカギを持ち出したのがバレるシーンも説明セリフ無しで描写していました。さすが巨匠は違います。本『映画術』で「説明セリフなんて誰も聞いていない」「セリフなんて効果音と同じだ」なんて言ってるだけはあります。
これを補足すると映像と組み合わさってこそセリフが生きると言いたかったのだと思います。

2人は連絡のために待ち合わせます。ここでの2人の会話もていねいに切り返しています。公園かどこかのベンチでデブリンは連絡の待ち合わせで遅れたことに文句を言ってるのに、暗くなるまで待ちぼうけの図はいい。これが1番のシーンです。

クライマックスは王子様が助けにやってくるシーンとなっています。
ラストがまた少し風変わりです。何となく中途半端な感じとなっています。1940年代はフリッツ・ラング監督作品でもこんな感じのエンドがあったような。当時は流行っていたのかもしれません。

イングリッド・バーグマンがホントにきれいに撮れています。
ゲジゲジ眉毛が素敵です。
二重瞼なんですね。きれいです。
はれぼったい眼で素敵です。
丸っこい鼻が素敵です。
厚いタラコ唇で素敵です。
横顔が素敵です。これはヒッチコック監督も分かっているのか横顔ショットが多いのです。
豹柄のトップからへそは見えていませんけどお腹が見えているのがいい。
最初のパーティーでは白のイブニングドレス。
新婚から2ヶ月でのお披露目パーティーでは黒のイブニングドレス。とわかりやすく美しく見せています。
黒いイブニングドレス姿での猫耳のヘアスタイルがイカします。
背が高いのもイカします。ヒールの高い靴を履くとバーグマンは6フィート=180センチ近くなるはずです。でかい。ちなみにクロード・レインズはバーグマンより背が低いので並ぶシーンでは台に乗ってたとのこと。ここがフランソワ・トリュフォー監督の『汚名』がお気に入りのゆえんのようです。


本『映画術』によると『汚名』はフランソワ・トリュフォー監督のヒッチコック監督作品の中で1番のお気に入りだそうです。どこがいいのかというと背が低い男が自分より背の高い女性を愛するのがいいらしい。トリュフォーが自分より背が高いファニー・アルダンを相手に実生活でこれを実践していたので『汚名』がお気に入りだというのはホントのことのようです。

いままでは期待し過ぎでスポイルしてましてようやく普通に見れるようになりました。サスペンスはもちろんありますがこれはスパイ・サスペンスではなくスパイ・メロドラマです。
IMDbではジャンルがフィルム・ノワールにもなっていたのにはビックリします。その普通のメロドラマをヒッチコック監督が超絶技巧で演出した作品だと思えます。これは凄いです。

そんなわけで普通のメロドラマにしても面白いけどその上に演出が凝りまくりのよい作品でした。

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