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2005.04.23

『疑惑の影』(1943年)

この作品はアルフレッド・ヒッチコック監督、テレサ・ライト、ジョセフ・コットン主演のホームドラマ・サスペンスの異色作です。
ホームドラマがよく描かれているのが異色となっています。アルフレッド・ヒッチコック監督の他の作品では見られないことなのです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。

1943年 スカーボール・プロダクション/ユニバーサル・ピクチャーズ アメリカ作品
ランニング・タイム◆108分
原題◆Shadow of a Doubt
プロット◆やって来た叔父は怪しいという話しのようです。◆怪しいだけではなかったという話しのようです。
音楽◆ディミトリ・ティオムキン 結構派手に鳴っています。

ユニバーサル・ピクチャーズ発売のDVDセット『ヒッチコック・コレクション I』のDVDにて。画質は非常によいです。
DVDセットの作品紹介では恐怖がどうのこうのと、とんちんかんな書き方をしています。これはよくあることで書いてる人がこの作品を見ないで紹介しているのではと思えます。アルフレッド・ヒッチコック監督作品に恐怖はあまり関係ないと思えますが。

キャスト
テレサ・ライト→ヒロインのチャーリー・ニュートン
ジョセフ・コットン→叔父のチャーリー・オークリー
パトリシア・コリンジ→母で姉のエマ・ニュートン
ヘンリー・トラバース→父で銀行員のジョゼフ・ニュートン
エドナ・メイ・ウォルコット→妹のアン・ニュートン
チャールズ・ベイツ→弟のロジャー・ニュートン
ヒューム・クローニン→隣人で推理マニアのハーブ
マクドナルド・ケリー→若い刑事のジャック・グレアム
ウォーレス・フォード→中年刑事のフレッド・ソーンダース
エステル・ジュウェル→ヒロインの友人キャサリン
ジャネット・ショウ→ヒロインの友人でバーに勤めるルイーズ

アルフレッド・ヒッチコック監督の演出はよいと思います。
この作品はヒッチコック監督の異色のサスペンスでホームドラマがよく描かれているのが他作品では見られないから異色なのです。
ディテールのセリフの良さは脚本ソーントン・ワイルダーの力なのか。子役のセリフ、使い方、出来の良さも異色になったりします。子役が生き生きと描写されています。全体的なセリフも生き生きとしています。
本『映画術』ではこの作品が1番というわけではないと言ってるのは脚本がよすぎるせいなのかもしれません。それとは別に人間が描かれている。これがポイントでしょう。アルフレッド・ヒッチコック監督に何かと言われるのが技巧的だが人間が描かれていないという批判。この作品はその人間が描かれている。


タイトルにて。
まだ雇われ監督の筈ですが上手くやったのかAlfred Hitchcock'sと入っています。
ですがアルフレッド・ヒッチコック監督が7年契約中の独立系プロデューサーのデビッド・O・セルズニックから貸し出されたことがちゃんと表示されています。こんな表示はあまりお目にかかれません。
ワルツのイメージショットがあります。このワルツのイメージショットは途中でもたびたび効果的に使われています。

テレサ・ライトとジョゼフ・コットン。タイトルでのビリングは2人一緒に出てますがテレサ・ライトの方が上に出ています。普通ならジョセフ・コットンが俺の方が上だと言い張るでしょう。そうならなかったのはジョゼフ・コットン本人の人のよさが表れている?のかもしれません。晩年には『緯度0大作戦』(69年)にも出てるのですからそう思えてしまいます。
ラストのキャスト表もテレサ・ライトがヤング・チャーリー、ジョゼフ・コットンがアンクル・チャーリーとなっています。凝ってて洒落ています。

主観ショットから切り返して見ている本人を映す手法があります。主観ショットリアクションと言ったらいいのか。
斜めのアングルを多用しています。ルーティンな手法ですが正しい使い方ですといいものです。

アルフレッド・ヒッチコック監督の演技に対する考え方は?オーバーアクトは嫌い。それにいわゆる舞台のメソッド演技も嫌いなようです。メソッド演技は他のよい映画監督のホトンドが嫌っています。舞台ではなく映画なんだというのが本音なのでしょう。


プロローグ
ニューヨークにて。ダウンタウンの下宿屋です。
当局に追われるジョセフ・コットン扮するチャーリー・オークリーが描写されます。スペンサーと名乗っています。
いら立ちを隠せずグラスを叩きつけるショットがあります。
刑事2人の尾行をまくチャーリー・オークリー。音楽は派手に鳴っています。
サンタローザに電報を打つチャーリー・オークリー。

一転、カリフォルニアのサンタローザです。ニュートン家にて。
テレサ・ライト扮するヤング・チャーリー・ニュートンは不機嫌です。平凡なニュートン家にがまんが出来ないようです。
この2人のキャラ紹介の描写は同じにやっています。
母の弟にあたる叔父のチャーリーに電報を打ちに郵便局に行くヤング・チャーリー。
入れ違いに帰宅して郵便局に電話するヤング・チャーリーの母。大きな声で喋ります。妹のアンが「叫べば届くと思っている」と突っ込みを入れます。

郵便局にて。
局員の女性にテレパシーについて話すヤング・チャーリー。
テレパシーより電信の方が確実だと返されます。気がきいたセリフです。
◆日本ではテレパシーと言われた方が固まってしまいます。

サンタローザに向かう汽車内のシーンです。
アンクル・チャーリーは病気と称してカーテンを締めた中です。
ここでヒッチコック監督が登場します。

サンタローザに着く汽車。
大量の黒い煙を吐く汽車でアンクル・チャーリーはサンタローザにやって来ます。本『映画術』によると大量の黒い煙は不吉な象徴としてわざわざこのようにして撮ったとのことです。アンクル・チャーリーが街を出る時は汽車は煙は出していないとなっています。こんなこと普通は気がつかないと思いますが。私はこの本『映画術』で初めて知りました。

ニュートン家に着きます。
ヤング・チャーリーの父に帽子をベッドに投げてはいけないと言われるアンクル・チャーリー。結局投げていました。

食事です。
皆に豪勢なプレゼントを贈るアンクル・チャーリー。
ここでも妹のアンが「欲しがらない方がたくさん貰える」と突っ込みを入れます。
アンクル・チャーリーから指輪をプレゼントされます。ここでワルツが流れています。
この作品は所々でワルツが流れワルツを踊るイメージが挿入されています。

食事の後の席で。
40000ドルを預金しようと話すアンクル・チャーリー。
このメロディーは何の歌?と話題になります。ここで歌のタイトル『メリー・ウイドー』の話をそらす為にグラスを倒すクローズアップショットは印象が残ります。上手い使い方です。

ヒューム・クローニン扮する隣人で推理小説マニアのハーブが来ます。
ヤング・チャーリーの父と殺人談義となります。

新聞を読むアンクル・チャーリー。
斜めのアングルを多用しています。読まれたくない記事載っている部分を隠します。この顛末は少しビックリの図となります。捨てた新聞を見つけたヤング・チャーリーの腕を掴むアンクル・チャーリー。

次の日。ニュートン家にて。
午前10:30に朝食のアンクル・チャーリー。
国勢調査?が来るとヤング・チャーリーの母。不機嫌になるアンクル・チャーリー。
2人連れの男が来るとなるとまた不機嫌度が増します。
アンクル・チャーリーの話しをするヤング・チャーリーの母。自転車事故で頭を骨折してから変わったとのことです。これはある程度の救いを入れてることになるのか?この作品の脚本はこういう描写バランスが行き届いています。

銀行に行く2人のチャーリー。
受付のヤング・チャーリーの父に嫌味を言います。
皆に聞こえるように銀行内で嫌味を連発するアンクル・チャーリー。
頭取に4万ドルを預金してやるぜとなります。
洗練されたきつい描写の図といった感じです。
未亡人のポッター夫人が登場。早速未亡人キラーぶりを発揮するアンクル・チャーリーです。

帰宅する2人のチャーリー。
ニュートン家の前に調査の男2人が既にいます。
男を無視して家に入るアンクル・チャーリー。
ケーキ作りを披露するヤング・チャーリーの母。調査の2人はそれどころではありません。目的は別のようです。
ヤング・チャーリーの案内で2階に行きます。
若い男は部屋にはアンクル・チャーリーはいないと言う。いません。
裏階段から入って来たアンクル・チャーリーを写真に撮るがフィルムを渡せとアンクル・チャーリー。
そんなこんなで調査は終わります。ヤング・チャーリーに街の案内を頼む若い男。

街にて。
食事が終わったとこで唐突に男が刑事だと知るヤング・チャーリー。
怒るヤング・チャーリーですが何か証拠があれば持ってくるようにとなってしまいます。

帰宅するヤング・チャーリー。
ゴミ箱をあさって破られた新聞を持ち出します。
バラバラでわからんので妹のアンの助言で図書館に向かいます。
閉館時刻午後9:00が迫るので急ぐヤング・チャーリー。お巡りに注意されます。
閉館直後の図書館に無理を言って入るヤング・チャーリー。

図書館は午後9時までやっています。映画とかは興業は9時頃までやっているのですから遊びだってお勉強だって同じ時刻までやるのが普通でしょうね。

図書館で新聞を読むヤング・チャーリー、未亡人連続殺人犯の記事を読むとこではちゃんと音楽がメリー・ウィドーのワルツになっています。さすが巨匠で凝っています。指輪は被害者の物だったのです。記事を読み終わったとこでカメラは徐々に引いてロングの俯瞰図となります。上手い使い方です。

ニュートン家です。
夕食の準備をするヤング・チャーリー。で、勇気を出してアンクル・チャーリーのいる夕食の席に向かうヤング・チャーリーです。
この夕食の席で金持ち未亡人に対する考え方を披露うするアンクル・チャーリー。熱弁するアンクル・チャーリーに寄っていくカメラ、たっぷり寄ったとこで突然カメラ目線になるのが効果的で思わず身をすくめてしまいそうです。
で、金持ち未亡人達を「あんなやつらはブタだ」とかまします。そしたら「そんなことを婦人会の講演で言わないでね」という姉でありヤング・チャーリーの母のセリフで落ちがつくのがいい。洗練されたきつい描写の図といったとこです。

隣のハーブが来てまたヤング・チャーリーの父と殺人談義となります。
この話しを聞いてヒステリーを起こし家を飛び出るヤング・チャーリー。追うアンクル・チャーリー。

追いついてバーに入る2人のチャーリー。
アンクル・チャーリーの手を見て何を思うかヤング・チャーリーと余計な説明セリフは入りません。見たことに対するリアクションの短いセリフは入ります。
自説を展開するアンクル・チャーリー。「この世界はブタ小屋だ」とかまします。

後日、教会にて。
妹のアンと話しをする刑事2人。
眼鏡で本が好きな妹アン・ニュートンが色々と突っ込みギャグをかまします。刑事がヤング・チャーリーを呼んでくれと言うと「何で内緒に話すの?親同士の仲が悪いの?」ときます。ロミオとジュリエットではないのだよ。

年を取った方の刑事ソーンダイクと話すヤング・チャーリー。
あと2時間でアンクル・チャーリーを街から出るようにしなければならなくなるヤング・チャーリー。

ヤング・チャーリーが帰宅したとこでハーブとヤング・チャーリーの父の殺人談義から東部のもう1人の容疑者が飛行機のプロペラに巻き込まれて死亡したとわかります。
同じくこれを聞いたアンクル・チャーリーはニュートン家に居座るつもりとなりますが、ヤング・チャーリーが困った存在となる。ここをセリフに頼らずに2階から玄関を見下ろすショットで描写しています。さすが巨匠は上手いじゃん。
アンクル・チャーリーの秘密を知っているヤング・チャーリーは窮地に陥ります。

若い刑事グレアムがヤング・チャーリーに会いにきます。
事件は解決した。と、結婚の話をしています。わかってないじゃん。
話しをしながらガレージ内に入るグレアム刑事とヤング・チャーリーですが突然ガレージのドアが閉まります。外に出るとアンクル・チャーリーがいます。
アンクル・チャーリーにお別れの挨拶をするグレアム刑事。わかってないじゃん。

この若い刑事グレアム演じるマクドナルド・ケリーはどうでしょう?
本『映画術』では名前でボスターの下の方に出る俳優しか使えなかったとダメ出しをされていました。
私はしては悪くはないけど何か足りないなとなります。ですからスターが必要なのも。

後日、ニュートン家にて。
階段が壊れて転落しかかるヤング・チャーリー。
夜になり懐中電灯で階段を調べるヤング・チャーリー。アンクル・チャーリーが出てきます。
自分のことをバラすと君のママはどうなる?ニュートン家は崩壊するぞと開き直るアンクル・チャーリーです。

アンクル・チャーリーが婦人会で講演する日です。
ガレージで小細工をするアンクル・チャーリー。そんなわけでエンジンのかかったクルマとガレージに閉じこめられるヤング・チャーリー。排気ガスの濃いこと。いくら昔のクルマでもこれは映画的誇張描写のようです。
ここは隣のハーブが発見してヤング・チャーリーは助かります。

皆を送り出してヤング・チャーリーは家に残ります。
グレアム刑事とは電話で連絡が取れず。アンクル・チャーリーの部屋を捜索となります。

家族や客がやって来てパーティとなります。
この席でいい気分のアンクル・チャーリーですが階段を下りてきたヤング・チャーリーの手に証拠の指輪があります。カメラが寄ってこれが証拠なんだとクローズアップショットで見せてくれます。クローズアップショットが欲しいとこでビシッと入れてくれるこのへんも上手いです。
で、これを見て突然「明日この街を去る」と宣言するアンクル・チャーリー。

駅にて。
アンクル・チャーリーを見送る人達。
煙が控えめに出している汽車になっています。これはそのように演出したそうです。そこまでやるのかと感心します。
見送りと弟と妹を監視するために汽車内にいるヤング・チャーリー。
アンクル・チャーリーがヤング・チャーリーを無理に引き止めているうちに汽車は発車してしまいます。
そして、シーンは転換されワルツのシーンが挿入され葬式のクルマの列となります。
グレアム刑事とアンクル・チャーリーの話しをするヤング・チャーリー。エンドとなります。
ところでDVDの日本語字幕は少しアンクル・チャーリーに対して少しキツつないか?「何でも世間のせいにする」はないでしょう、考えは間違ってはいたけど少なくともロジカルでしたけど・・・。


テレサ・ライトはヒッチコック作品のヒロインにしては珍しいブルネットの髪ですが素敵です。◆歩き方がチャーミングです。◆スーツ姿が素敵です。◆白い襟のワンピース姿は素敵です。◆ところでこの作品でのキャラクターでは歳はいくつなの?職業は高卒の家事手伝い?
きれいに魅力的に撮れています。女優さんをきれいに撮れないのは映画監督ではありません。

ジョセフ・コットンは好演しています。
ヒッチコック監督の好きなタイプで口車が達者ないい男がハマっています。未亡人連続殺人犯だけあってスケコマシの腕はいいようです。

マクドナルド・ケリーはやっぱり大根か?まあまあですか?
ジョセフ・コットンとバランスが取れないのが致命的です。そう言えば、B級ウエスタンの『銅の谷』(1950年)でも偏見があったせいかイマイチでしたな。

テレサ・ライトは独立系製作者サミュエル・ゴールドウィンから借りてきたそうですが他にもゴールドウィンお抱えの俳優が出ていました。
『ミニヴァー夫人』(1942年)、『偽りの花園』(1941年)にはヘンリー・トラバースやパトリシア・コリンジ等見覚えのある方々が出ていました。ホントはテレサ・ライトだけでよかったのかしれません。


そんなわけで無駄の箇所がなくホームドラマとサスペンスが融合しているよい作品でした。


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