『海外特派員』(1940年)
映画は監督で見る私の1番大好きな監督、アルフレッド・ヒッチコック監督の、ジョエル・マクリー、ラレイン・デイ主演の巻き込まれサスペンスです。
なおこの文はネタバレ全開となっています。
1940年 ウォルター・ウエンジャー・プロ/ユナイト アメリカ作品
ランニング・タイム◆120分
原題◆Foreigh Correspondent
紀伊国屋書店発売のDVDにて。画質は結構よい。秘蔵のLDよりはよい画質でした。◆DVDの日本語字幕表記がヴァン・メイアではなくファン・メールになっています。外国語のカタカナ表記には正解がない?
プロット 取材に行ったら陰謀に巻き込まれる話しのようです。
音楽 アルフレッド・ニューマン
キャスト
ジョエル・マクリー→やる気だけはあるジョニー・ジョーンズことハントレー・ハバーストック記者
ラレイン・デイ→フィッシャー氏の娘キャロル
ロバート・ベンチュリー→やる気のない特派員ステビンス
ハーバート・マーシャル→政治家フィッシャー氏
ジョージ・サンダース→皮肉屋の敏腕記者スコット・フォリオット
ハリー・ダベンポート→グローブ社の社長パワーズ
アルバート・バッサーマン→政治家ヴァン・メイア氏
エドアルド・チアネリ→敵方のクルーグ
エドマンド・グエン→殺し屋ローリー
アルフレッド・ヒッチコック監督の演出はよいと思います。
ウォルター・ウエンジャー製作です。まだ雇われ監督なのでタイトルにAlfred Hitchcock'sとは入っていません。
それでもかなり自由にやらしてもらっていると思えます。
次から次へとアイデアを詰め込んでて感心します。今ごろになってようやく脚本が大事は分かってきたような。
タイトル部分から凝っていて回る地球儀がずっと映っていてタイトルが終わるとそこから引いてニューヨーク・モーニング・グローブ社全景となっていました。ここがミニチュアなのがいい。
ロンドン特派員のステビンスは無能とこき下ろすモーニング・グローブ社のパワーズ社長は新しい記者を探します。
ジョエル・マクリー扮するやる気だけはあるジョニー・ジョーンズ記者が呼ばれます。政治家ヴァン・メイア氏に会えと指令が出ます。
ハーバート・マーシャル扮する政治家フィッシャー氏もやってきて話に加わります。
ジョニー・ジョーンズはのパワーズ社長からハントレー・ハバーストックの名前を貰います。スーツケースのイニシャルJ.J.をH.H.に直すショットが入ります。
そんなわけでパッパとセリフで設定して話しは進みます。
英国行きの船が出ます。で、あっという間にN.Y.からロンドンへとなります。ここはハリウッド製のロンドンか。現地ロケはやっていないようでその関係もあるのか全編ミニチュアにスクプロと特殊効果全開でいい。こういうの大好き。
ロンドンの駅です。
ロバート・ベンチュリー扮するやる気のない特派員のステビンスが迎えに来ています。で、「こんなに楽な仕事はない、政府発表に署名するだけでいい」とかまします。アイロニーが効いています。
政治家ヴァン・メイア氏取材のため昼食会に出るハバーストック記者(仮名)。
タクシーを待つとこでヴァン・メイア氏と会います。
ここでアルフレッド・ヒッチコック監督が登場します。このシーンですが、編集権がなくて登場シーンのあっさりと編集でカットされた『レベッカ』(40年)の対策なのか、この作品では主役のジョエル・マクリーが重要なキャラのヴァン・メイア氏に初めてコンタクトするシーンでジョエル・マクリーに絡めて2つのショットでそれぞれ少し長めで登場しています。なるほど、これなら絶対に編集でもカット出来ません。普通は1ショットのみなのに。映画作家というのは妙なとこに執念深いところを見せてくれます。
タクシーに相乗りとなるハバーストック記者(仮名)とヴァン・メイア氏。
色々と話が出て鳥の話も出ます。
サヴォイ・ホテルに着きます。
ラレイン・デイ扮するフィッシャー氏の娘キャロルが登場。まだハバーストック記者(仮名)はフィッシャー氏の娘とは知りません。
ところでハーバート・マーシャルは凄い早口でセリフを喋っています。
ラトヴィアの男は話しをするハバーストック記者(仮名)この辺でもう本名ジョーンズと名乗っているようです。
昼食会です。
まだ正体を知らないのに伝言メモ攻撃をしているジョーンズ記者。
キャロルがスピーチするとこで紹介が入りフィッシャー氏の娘だと知ります。
ところでヒッチコック監督は主人公が多数の人の前で話しをして悪戦苦闘するシーンがよくあります。監督のトラウマなの?
オランダ アムステルダムに行くジョーンズ記者。
ここで有名な雨の中のヴァン・メイア氏暗殺シーンがあります。俯瞰で傘の群れの中を犯人が逃げるのを軌跡で見せるとこはお見事の一言。
逃げる殺し屋を追うジョーンズ記者。クルマで逃げる殺し屋を追うためにクルマを拾います。これが偶然でジョージ・サンダース扮する記者のフォリオットのクルマだったりします。
そんなわけです1940年の作品ですがカーチェイスも一応あります。クルマの性能がイマイチなのでコマ落としにして速くするとこもあるのはご愛嬌ということで。
風車小屋が多数ある場所で殺し屋のクルマが消えます。
1台だけ風車が逆に回っている風車小屋があります。この小屋を調べるジョーンズ記者は中に入ります。
上の奥の部屋に殺されたはずのヴァン・メイア氏がいます。薬でラリっていて要領を得ません。ヴァン・メイア氏から鳥の話が出ます。
ここでは巨大な歯車にコートをはさまれたりと大変なジョーンズ記者です。
ようやく小屋の外に出てオランダ警察を呼ぶのがまた大変なジョーンズ記者。英語が通じないからです。女の子に通訳してもらいます。
風車小屋に戻りますが手掛かりは何もない。こまった状態になるジョーンズ記者。
ホテル・ヨーロッパです。
人差し指打ちでタイプするジョーンズ記者です。記事を書くシーンは一応あった。
警察の名乗る男が2人やってきます。ここでオランダの偽警察の殺し屋が言うには警察署では「全員英語が喋れます」となり、ジョーンズ記者が受けて「アメリカでもそうはいかないよ」と軽くギャグが入ります。
で、殺し屋らしいとわかりガウン姿のまま浴室の窓から逃げるジョーンズ記者。逃げる時にネオンの1部を消してしまいホテル・ヨーロッパがホット・ヨーロッパとなります。わかりやすい。
キャロルの部屋に逃げ込むジョーンズ記者。
助けを求めます。口論になりますが結局助けることになるキャロル。
ジョーンズ記者は電話でかけ小細工をしてボーイに服を持ってきてもらいます。
このボーイを演じているのがアレキサンダー・グラナッハとのことです。フリッツ・ラング監督の『死刑執行人もまた死す』(43年)の悪役ゲシュタポの警部が印象的です。
そんなわけでホテルを出るジョーンズ記者とキャロル。
フェリーに乗るジョーンズ記者とキャロル。
船室切符を買うとこで小ネタのシーンがあります。結局買えずに甲板で寝ることになる2人です。プロポーズをするジョーンズ記者。この方がいい感じになっています。
ロンドンに着きます。
フィッシャー宅に入る2人。ところで執事のスタイルズは一味です。
来客がいます。これが風車小屋にいた男クルーグです。
そんなことから半分ほどでフィッシャーの正体を明かしてしまいます。これは順当なとこです。早めのほうがいい。書斎でクルーグとジョーンズ記者殺しの相談をするとこで犬の吠え声がシンクロしているのが面白い。
ジョーンズ記者を始末するために殺し屋を呼びます。エドマンド・グエン扮する殺し屋ローリーが登場。とぼけてるのか本気なのか分からんキャラがいいです。
タクシーから大聖堂の展望台に入ります。機会を伺うローリー。このシーンは目一杯サスペンスで引っ張って結果は新聞記事の見出しでわかるようになっています。映画的でいいです。
モーニング・グローブ社ロンドン支局にて。
ステビンスにフィッシャーが殺し屋を雇ったと話すジョーンズ記者。
フォリオットもやってきます。このフォリオットは途中からホトンド主役級の活躍となっています。
フォリオットの提案でキャロルを誘拐したことにしてフィッシャーからヴァン・メイア氏の居所を聞き出そうと話は進みます。
相手に気がつかれないように上手く段取りをしているフォリオットです。
予定を変更させてジョーンズ記者とキャロルをケンブリッジへと行かせます。
DVDではキッドナップを拉致と訳しています。拉致なんて2005年の時事ネタではないかいと思えます。素直に誘拐ではいいのでは?
ケンブリッジの何とか学寮に着くジョーンズ記者とキャロル。
ジョーンズ記者は一応フォリオットの指示通りに行動しています。そんなとこにフォリオットから電話で深夜まで引き止めろと指令が来ます。こまるジョーンズ記者です。
フィッシャー宅です。
フォリオットがフィッシャーと交渉する。このシーンの落ちが上手い。
キャロルを誘拐したと見せかけてフォリオットがフィッシャーにヴァン・メイア氏の居所はと脅迫するが。もう少しのとこで犬の吠える声とクルマのドアの締まる音でキャロルが帰宅したことに気がついてフィッシャーはこの場を逃れてしまいます。
キャロルに明日アメリカに発つと話すフィッシャー。戦争が始まるからその前に脱出ということです。
フィッシャーは出かけます。もう策がないので尾行するフォリオット。
ホテルへ着きます。ヴァン・メイアは下品な音楽を聞かされ強力なライトを当てられて眠れなくされています。
フィッシャーは味方のふりをしてヴァン・メイアから聞き出そうとするが途中から乱入したフォリオットに邪魔をされ失敗します。
次は手下に拷問させます。ここははっきりとは見せず。これは当然ですか。今だって見せないでしょう。
何だかんだあり乱闘となりフォリオットは窓から下の日よけに飛び降りて脱出します。このシーンは上手く行き過ぎでまるでギャグのようです。でも大まじめな感じで演出されています。
ちょうど到着したジョーンズ記者とステビンスがフォリオットと一緒に乗り込んでヴァン・メイアを救出します。フィッシャーはずらかります。
スコットランドヤードにて。
フォリオットがフィッシャーを逮捕しろと交渉中。警察はやる気がなくて全然ダメです。しょうがないのでフィッシャーの乗る飛行機に同乗することにします。
で、フォリオットはステビンスに伝言を頼みます。これが多量の伝言で最初はまじめにメモしていたステビンスですが途中から投げやりになってていいギャグになっています。
アメリカに向かう飛行機です。飛行艇タイプ旅客機のようです。
飛んでいる飛行機にカメラが近づきワンショットで窓から機内にカメラが入ったように見せていました。合成とオーバーラップで上手く処理したように見えます。現在の技術ならもっと上手に出来るシーンで『ミッション:インポッシブル』(96年)の空撮から走行中のTGVの窓から車内に入るシーン等。ブライアン・デ・パルマ監督がよく引用するシーンで、デ・パルマ監督はこのシーンがきっと好きなのでしょう。
フィッシャーはフォリオット宛ての電報を読んで全てが終わったと知ります。
ここでジョーンズ記者がキャロルのことを思ってあくまで知らないふりをするとこがいい。
そんなとこでいきなり砲撃されます。機内は大混乱。
で、見どころの飛行機がスクリーンプロセスの海に墜落するシーンがあります。墜落すると操縦席の窓からスクリーンプロセス用のスクリーンを破って本物の水が流れ込んでくるのです。これは素晴らしいアイデアの素敵なシーンです。
墜落中は操縦席と客席をカットバックしてカットが変わる度に操縦席から見えるスクリーンプロセスの絵のサイズを変えていて段々とスクリーンプロセスの海面が近づいてくるように撮っています。凝ってて上手いじゃん。
飛行艇タイプ旅客機だから上手く着水出来たようです。つじつまが合っています。
墜落してからの海上のシーンも波の合成が上手いので結構臨場感があります。波が高く見えるように合成されているのがポイント。上手い。
アメリカ軍の軍艦モヒカン号に救助されます。
ドイツの船でなくてよかったと何故か合成で双眼鏡のレンズに船が写る描写があります。
モヒカン号内では取材活動は禁止ですが私信ならいうというどさくさに紛れて記事を送ってしまうシーンもいい。通じている電話機を隠してジョーンズ記者が艦長に説明してフォリオットが上手く合いの手を入れ記事にして送ってしまうのです。
エピローグ。
ラジオ演説をする海外特派員ジョーンズ。
ラストは当時の国策映画らしい放送で皆に呼びかけるスタイルで終わります。
実質ハワード・ホークス監督の『遊星よりの物体X』(51年)でもこんな感じで終わっていました。ハリウッドではドイツも物体Xも同じなのかいと思えてしまいます。
ハーバート・マーシャルやエドマンド・グエンはヒッチコック監督の英国時代からの知りあいの筈ですが本『映画術』ではあまり触れていなかった。俳優は家畜だなんて言ってるから俳優とは仲よくないのか。それとも自分の若い頃のことを知られているからか?興味深いとこです。
ジョーンズ記者役のジョエル・マクリーは洗練はされていませんがヨーロッパに来たヤンキーぶりがなかなかよくていい感じ。それにしても追われるのに忙しいのか記事を書いてるシーンはそんなにありませんでしたよ。ラブシーンはありましたけど。誘拐に見せかけるためにヒロインを引き止めるといううれしいような困ったような仕事をするシーンもいい。
もちろんこの主役の記者は当初の予定通りゲーリー・クーパーだったらもっとよくなるに決まっています。クーパーは洗練されてるヤンキーですから。
クーパーはスリラーはダメとアルフレッド・ヒッチコック監督の『海外特派員』(40年)は断ってるのに気が変わったらしくフリッツ・ラング監督の『外套と短剣』(46年)には出てることから、後でヒッチコック監督にクーパーが「あのときはたいへんなミスをしたよ。あんたの映画に出るべきだった」と言ってたという話しは本当のようです
ヒロインのキャロルのラレイン・デイは実生活ではMLBで主に監督として有名なレオ・ドローチャーと結婚した人です。
もしゲーリー・クーパーが出演していればヒッチコック監督としては1940年当時はハリウッドにいたマデリーン・キャロルを使いたかったのでしょう。マデリーン・キャロルは英国時代の作品『三十九夜』(35年)と『間諜最後の日』(36年)に出ているのです。この2人のキャストでも見たくなります。
セシル・B・デミル監督の風変わりなウエスタン『北西騎馬警官隊』(40年)はこのゲーリー・クーパーとマデリーン・キャロルと組み合わせでした。そういえば『海外特派員』(40年)のヒロインの役名がキャロルでした。偶然にしては出来過ぎています。
そんなわけでアイデア満載なサスペンスの見本のようなよい作品でした。
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