『探偵物語』(1951年)
この作品はウイリアム・ワイラー監督、カーク・ダグラス、エリナー・パーカー主演の刑事ドラマのようです。
邦題はあまりあっていなくて、感じとしては『ある刑事の物語』がいいと思えます。
私の大好きな作品の感想です。なおこの文はネタバレ全開となっています。
1951年 パラマウント アメリカ作品
ランニング・タイム◆103分
原題◆Detective Story
プロット◆コンプレックスと偶然が重なって死に至る刑事の話しのようです。
音楽◆タイトルとエンドに少しあるだけで本編内は音楽は無しでした。
パイオニアLDC発売のLDにて。画質はよいです。
パラマウント発売のDVDにて。画質は非常によいです。
キャスト
カーク・ダグラス→悪は許せないジム・マクロード刑事
エリナー・パーカー→マクロードの奥さんメアリー
ウィリアム・ベンディックス→情けがあるブロディ刑事
ホーレス・マクマホン→モナハン分署長
バート・フリード→万引き担当のディキス刑事
フランク・フェイレン→受付のギャラハー刑事
ルイス・バン・ルーテン→記者のジョー
リー・グラント→万引きした中年女性
クレイグ・ヒル→使い込みをした男アーサー
キャシー・オドネル→アーサーに片思いのスーザン
ジョゼフ・ワイズマン→強盗のチャーリー
マイケル・ストロング→チャーリーの相棒ルイス
ジョージ・マクレディ→堕胎医シュナイダー
ワーナー・アンダースン→シュナイダーの弁護士シムス
グラディス・ジョージ→証人ハッチ(買収済み)
ジェラルド・ムーア→ヤクザな男タミ・ジャコパティ
ジェームズ・マローニー→使い込みされた人プリチェット
ウィリアム 'ビル' フィリップス→キャラハン刑事
ケイ・ウィリー→被害妄想のおばあさん
ドナルド・カー→タクシーの運転手サム
ハーパー・ゴフ→スリにあったギャランツ・デビッド
ウイリアム・ワイラー監督の演出はよいと思います。
脚本のことをよくわかりませんがよく出来ているんでしょうね。何回も見てるせいか私が見ててもこれが伏線になっているのかとよく分かります。
緻密なカット割り。編集。緻密な構図。手前から奥に緻密に配置されたキャラにピントがピタリと合ったパンフォーカスの見事な撮影。緻密に計算されて人物の出入り。
いい俳優が揃っていて。どの俳優も好演して文句の付けようがありません。
元々が舞台劇だから人物の出し入れの上手いこと。感心します。
私が舞台の映画化作品が好きなのは『探偵物語』(1951年)と『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)を見たからです。場所を限定されていてやたらとあちこちに移動せずに映画的に仕上げる舞台の映画化絶品2本立てとなります。
市街を俯瞰するシーンのタイトル。
N.Y.21分署が舞台。昼前から深夜まで。
万引きした女性が連れられて来ます。6ドルのバッグ。
写真を撮るとこで後ろの壁の目盛りからするとリー・グラントの背の高さは5フィート2インチのようです。
被害妄想のおばあさんが登場します。受付のギャラハー刑事が無難に受付て帰します。このキャラは現在の作品で出すのは無理がありますが、まあ無害な人です。
弁護士のシムズが登場。分署長に会わせろときます。会って話しをする。
万引きの女性は調書を取られます。裁判がある夜まで待てと言われています。
刑事達は自分で調書をタイプしてます。
幸せ一杯、自信たっぷりでカーク・ダグラス扮するジム・マクロード刑事が登場。使い込みをしたアーサーを連れて登場です。
21分署前で待っていた奥さんのメアリーと会うマクロード刑事。
タクシー内でキスしています。
署内でシムズ弁護士と会うマクロード刑事。
堕胎医のシュナイダーを追うマクロード刑事は署長に何でそんなに執拗なのか?他に理由があるのかと一応確認をされています。
ウィリアム・ベンディックス扮するブロディ刑事がアーサーと話しをします。ブロディ刑事の息子は戦争で死亡しています。アーサーと同じ歳ということです。
強盗の2人、ジョゼフ・ワイズマン扮するチャーリーとマイケル・ストロング扮する相棒ルイスが連行されてきます。
ジョゼフ・ワイズマンの演技を絶品です。
ルイスを調べる刑事達。2人を上手く分断してルイスを説得して隠れ家に案内させます。ここでルイスは一時退場。
万引きの女性は電話で妹の亭主の弁護士に連絡します。
アーサーの幼なじみでアーサーが入れ込んでいたモデルの地味な妹スーザンが登場。アーサーと話しをします。
堕胎医のシュナイダーが登場します。
これで奥さんとデートの予定があるマクロード刑事は帰りそびれてしまいます。
シュナイダーは潜りの堕胎で56000ドル貯め込んでいるとのこと。
マクロード刑事はシュナイダーを起訴するために証人を2人用意しています。
そのうちの1人を証人を呼んで面通しをすることになります。これがすでに買収済みで話しになりません。
資料室で記者のジョーとロクデナシだった自分の父親の話しをするマクロード刑事。
これが重要な伏線となっています。
シュナイダーをもう1人の証人のいる病院に連れていこうとするマクロード刑事。
護送車のシュナイダーとマクロード刑事。
ここでマクロード刑事から『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の話しが出ています。もしかして『二度あることは三度ある』『三度目の正直』と似たようなことわざなの?
→『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1946年)
そんなことからで証人が死んだと連絡が入り引き返す護送車。
これを知っていたシュナイダーに激怒して殴るマクロード刑事。
シュナイダーは病院送りとなります。救急車に送られる際に分署長にタミ・ジャコパティなる男の名を出します。
このことをマクロード刑事は知りません。
居心地のよさそうな万引きをした女性。
新聞に載っていた漫画は『ディック・トレーシー』でした。
スリにあった男が登場。典型的なN.Y.見物のお上りさんです。
シムズ弁護士は分署長と交渉中。思わせぶりなことを連発しています。この弁護士は知っているのです。
分署長は電話でマクロード刑事の奥さんメアリーを呼び出します。
ルイスの案内で盗品を押収した刑事達が戻ってきます。
アーサーに使い込みをされたプリチェットがやって来ます。スーザンもやって来てカネは払うとなります。ですがマクロード刑事がやめさせます。
ブロディ刑事は何とか取りなしてやろうとします。
ここで分署長がマクロード刑事に資料捜しを命じる。
その隙に奥さんのメアリーを分署長室に入れます。
分署長はメアリーにシュナイダーのことを聞きます。知らないと答えるメアリー。
タミ・ジャコパティの名を出します。知らないと答えるメアリー。
ここで既に呼ばれていたタミ・ジャコパティ本人が登場してあっさりとメアリーと深い仲だったというのがわかります。一言名前を呼ぶだけで全てがわかってしまうシチュエーションとなっています。これはドラマチックで凄いです。
ヤクザのタミ・ジャコパティはメアリーのことをしっかりと覚えています。よくいえば青年実業家といった感じです。
資料捜しから戻ったマクロード刑事はプリチェットを説得にかかります。
ちょうどチャーリーの前科が判明し、自分の前科がバレたとわかるとチャーリーは態度を一変させて大笑いで退場となります。ジョゼフ・ワイズマンの演技は凄過ぎ。
極端な例を見たのでプリチェットはアーサーを告訴することになります。
チャーリーの前科がばれたとこで「人種が違う」のセリフがあった。これは昔から言われているようです。
記者がマクロード刑事に意見します。「君は厳し過ぎる」
分署長室ではタミ・ジャコパティがメアリーのことを話しています。
7年前にあって子供が出来たとこでメアリーは消えたとのこと。
メアリーですがヤクザから刑事とは随分と極端な男の選択の仕方です。意図的ではなく偶然だと思いたいとこです。
そんなわけでここで事実が判明します。メアリーは夫のマクロード刑事はこのことを知らないと言います。マクロード刑事がシュナイダーを追っているのは単なる偶然なのです。
ここでマクロード刑事が分署長室に呼ばれてメアリーのことを初めて知ります。
マクロード刑事はメアリーのことを許せません。許すとはおこがましい表現なので言い換えれば事実を自分の中で処理出来ないとでもなりますか?
中絶はキリスト教的にはやっぱり許されないことなのでしょう。このことになかなか気がつきませんでした。なんせ無宗教の国で生まれ育ったものでそうなります。
シュナイダーは下手くそな堕胎医のようです。
堕胎するならするでちゃんとやればいいのに失敗するとは、それにしても迷惑な男です。下手くそだから潜りの堕胎医となるわけです。この点は理路整然としています。
すっかりとくつろいでいる万引きした女性。
アーサーの調書を取るマクロード刑事は指紋も取ります。
ここで万引きした女性は指紋を取られるアーサーを見て涙ぐむスーザンに「指紋をとられても手は洗えばきれいになるのよ」と言ってボケをかまします。インクは落ちるけど指紋は記録される。別にインクで汚れたから悲しいのではありません、これは見てて苦いボケでした。
万引きした女性は裁判所に向かうために退場となります。
最後にお別れの挨拶をします。ここを出入りする人は誰もそんなことはしないでのでおかしいような妙なブラックなシーンとなっています。
アーサーのことを「お前は俺と同じだ」とわざわざスーザンに聞こえるように毒づくチャーリー。怒ったブロディ刑事がチャーリーに蹴りを入れます。
分署の屋上で話すマクロード刑事とブロディ刑事。
アーサーのことを頼むブロディ刑事ですがマクロード刑事の様子がおかしいことに気がつきます。変われないマクロード刑事の返事。憎んでいた父が自分のことをあざ笑っている、いや泣いているかもしれない。このセリフも泣かせます。
記者を加わって話しが続きます。
記者の勧めで資料室でメアリーと話し合って上手くまとまりそうになります。
しかし資料室を出たとこでシムズ弁護士と話したことでまた疑心暗鬼となり資料室に戻ってメアリーにバカな質問をして結局ダメになりホントに別れることになります。脳みそを洗う話しで決定的となっています。
ここでのシムズ弁護士の話しは単なるハッタリだったと思われます。罪な男です。
で、どうにもならなくなったマクロード刑事は隙をついてリボルバーを奪った強盗のチャーリーに無謀にも近づき撃たれて死に至ります。
死を間際にマクロード刑事は調書を破るようにブロディ刑事に頼みます。紙切れ1枚を破る行動にマクロード刑事のこれまでの人生の全てがかかっていると思えます。
アーサーとスーザンが警察を去る俯瞰のシーンでエンドとなります。この若い2人が希望を持たせるシーンとなっています。これがハリウッドスタイルなのです。
キャストについて。
エリナー・パーカーはヤクザにも刑事に愛される女性に見えます。これならほれてしまいます。
この奥さんに事情を聞くとこではヤクザな男と付き合っていたのは都会に出てきたばかりの1941年の2〜3ヶ月でその間6回か7回と回数まで聞いてた。何の回数だ?1950年代の作品でも意外とやります。
キャシー・オドネルも主演作品があったようです。ボスター本『CRIME MOVIE POSTERS』に載っていました。
使い込みの原因となる有名モデルという姉の姿が見せないのも描写バランス的上手い。
少し貧相なキャシー・オドネルはいかにも有名人の姉がいる地味な妹といった感じでこのキャラにハマり過ぎています。
リー・グラントの万引きして捕まったオールドミスはこの作品にユーモアを加えています。
強盗のチャーリーを演ずるジョゼフ・ワイズマンは現在の俳優でたとえればロバート・デ・ニーロとハーベイ・カイテルを足して10倍したような感じ(嘘ではありません)で凄い演技を見せてくれます。重要なキャラで自殺では神にすがれないジレンマに陥ったカーク・ダグラス刑事を天国に送る死の天使を務めているとも思えます。
カーク・ダグラスは大熱演が大好きな俳優でどの出演作品でも熱演してますがそのなかでも最もその熱演の出来がいいと評されるのがこの作品だそうです。
コンプレックスといえばマイケル・ダグラスは熱演大好きの父カーク・ダグラスにコンプレックスを持っていて、そのためセックス中毒となった。(嘘です)
悪は許せないジム・マクロード刑事のキャラバランス。ファザーコンプレックスが原因となり、それとめぐり合わせが悪く死に至る刑事の話です。
性悪の父を憎み悪を許せなくなった自分を変えられずジレンマに陥ってどうにもならなくなっていきます。いままで現実に対してそれなりに調整してた筈が一気に崩壊していきます。これをドラマチックです。
奥さんの若気の至りの過ちを許すことが出来ません。
その過ちとは都会に出てきたばかりのときにヤクザな男と付き合って子供が出来てしまい堕胎したということです。取り返しのつかないことがそのせいで子供が出来なくなってしまったこと。
堕胎した医者というのが奥さんの過去を知らない夫の刑事が現在シャカリキになって捜査中のもぐりの堕胎医シュナイダーというのが悲しい偶然の一致。これも重要な伏線となっています。
ブロディ刑事が戦死した息子と境遇が似ている男に好意を持って使い込んでカネは弁償してくれればこれはなかったことにと配慮したのを初犯だからといって見逃せないと無理やり告訴させていました。で、その調書をとる。これが重要な伏線になっています。
この男は幼なじみで有名モデルになった女友達に付き合おうとしてそれにはカネがいるとなって使い込みとなっていました。
「何が正しいのかわからない」のセリフを泣かせます。
撃たれてブロディ刑事に言う「手を握ってくれ」のセリフが泣かせます。もう痛みも感じないのか「もっと強く」のセリフもまた泣かせます。
腹を撃たれているので水を飲んだらいけないのですがもう手遅れなので言う通り飲ませてやれというシチュエーションも泣かせます。
これも手遅れなので医者より牧師のシチュエーションも泣かせます。結局牧師は間に合わなかったけど、これが正解な描写かもしれません。
マクロード刑事は変えられない自分の象徴だと思われる無理やり告訴に持ち込んだ例の調書を「破ってくれ」と言います。ベンディックス刑事が目の前でその調書を破り捨てます。ここも泣かせます。
マクロード刑事は目を閉じることなく見開いたまま死に至ります。そのままではあまりに気の毒なので側にいた記者が手で閉じさせるショット。ここも泣ける。
1枚の調書を破ったって何にもならないのに、あえてそれをやることに大きなエモーションが感じられるのです。(転生のイメージを感じたりします)このことが、私の涙を誘うことなのかな。
そして、いままで考えてきたことやってきたことが間違い、無駄だとわかり愛する奥さんを許すことが出来ずにも去られたこの人はもはや死ぬことでしか救えないのかもしれません。死を間際にして調書を破ることで、妻の名を呟くことで、神にすがることで、救われるのかもしれません。少なくとも納得して死ねることでしょう。
ここで、キリスト教的だと自殺では神にすがれないのでジョゼフ・ワイズマン扮する強盗のキャラが生きてくるわけです。このキャラに殺されることでキャラバランスが取れるのです。死の天使のゆえんです。殺し役が半端だったりすると「なんだいこりゃ殺す為だけのキャラかいな」となりますが、ワイズマンのキャラが強烈なのでそんなことを考えさせません。これはキャスティングの勝利です。
邦題ですが原題『Detective Story』の直訳なのですがこれでは警察ではなく私立探偵物のような感じになり少し外しているようなので、ここはあの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督風に『ある刑事の物語』とでもした方がよかったのかもしれません。
そんなわけで壮絶な展開のよい作品でした。これは傑作です。
映画を見て泣きたい人には必見と思えます。私は泣けました。
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こんにちは。探偵物語についてのTBありがとうございます。まさか、コメントまで頂けるとは思っていませんでした。それにしても、本当に素晴らしい解説ですね。
私が見ていて気付かなかった点も解説されてあったので、大変勉強になりました。また近い内に探偵物語を観ないといけないと思いました。どうも、ありがとうございました。
投稿: ディープインパクト | 2008.12.22 07:48